誰にも相談せずに決めたセカンドキャリアへの挑戦
――希崎ジェシカさんの引退後は情報がほとんど出ていません。現在はどのようなお仕事をされていますか?
希崎ジェシカ(以下、希崎) 美容クリニックのフロント業務に携わっていて、シフト制の週5日勤務で働いています。大手のクリニックの場合、フロント業務は受付対応がメインになると思いますが、私が働いているのはスタッフが30人ほどの個人経営店なので、受付からメールや電話の対応、カウンセリング、さらには清掃まで、幅広く仕事をしています。
――セクシー女優後の「セカンドキャリア」に美容クリニックを選んだ理由は?
希崎 現役時代から「引退してから何をするか」はとても迷っていたんです。ざっくりと「美容系」とは思っていて、エステティシャンになる、自宅で個人サロンを開くなど、いろいろと考えていました。
でも、私は2008年に19歳でセクシー女優としてデビューしてから30歳で引退するまで、一般の会社で一度も働いたことがなくて、あまりにも世間を知りませんでした。そんな自分を「やばい」と思って、まずは一般的なところで働いてみようと、美容業界の中で転職先を探してクリニックを選びました。
――美容系の仕事は、いつ頃から、何がきっかけで、やりたいと思うようになったんですか?
希崎 セクシー女優時代にマッサージを受けに行くことが好きで、それが美容系に興味をもつきっかけでした。アロママッサージは心身ともに癒やされるし、それが生活の中の楽しみになっていたので、自然の流れで「美容系の仕事がしたい」と思うようになって。
具体的に考えるようになったのは、引退する2年ぐらい前の28歳頃ですね。30歳という年齢が見えてきたときに「私はこのままでいいのかな」と考えるようにったんです。30歳を過ぎたらセカンドキャリアの働き口が狭くなることはわかっていたので、続けていくのであれば“AV業界に骨を埋める覚悟”が必要だと感じていたんですけど、私は続けていく自信がなかったし、他の仕事をやってみたいという好奇心のほうが強かったんです。
だから2年ほど悩んで、「30歳で引退する」と決めました。
――30歳で未経験の分野にチャレンジすることに対して不安はなかったですか?
希崎 不安だらけでしたよ。私は高卒で、パソコンも全くと言っていいほど使えなくて、セクシー女優1本でやってきたから、「誰が雇ってくれるんだろう?」という不安のほうが大きかったです。
他のセクシー女優の方は、引退してから芸能系の仕事をする人もいます。でも、私はもともと芸能系の仕事がしたくてこの業界に入ったわけではなくて、自分自身がAVを観ることが好きで入ったから、それは違うなと。そう考えたら、やっぱり美容系で働くことの興味が強くなっていって、「辞めたらやるしかないから、どうにかなるだろう!」って覚悟が決まりました。
――ちなみに、セクシー女優の同年代の仲間の方たちとはセカンドキャリアについてのお話や相談はよくされていたんですか?
希崎 相談はしませんでしたね。私は誰にも相談せずに、転職先が決まってからの「事後報告」でした。もともと、悩みは誰にも話さない性格で、19歳でセクシー女優としてデビューしたときも、家族にも、友達にも、誰にも相談せずに決めました。悩んでも自分の思いは曲げたくないという気持ちがあるので、誰にも言わずに自分で決めたいんです。こう見えて、結構、自我が強いのかもしれません。
履歴書にはセクシー女優の11年間を正直に書いた
それでも受け入れてくれる人と、働きたい
――「希崎ジェシカさんの転職活動」について教えてください。転職先はどうやって調べましたか?
希崎 引退後の2020年1月から「とらばーゆ」などの一般求人サイトで調べはじめました。私は「雇ってもらえるだけでありがたい」と思っていたので、重視したのは、お給料じゃなくて、社風や雰囲気。いろいろ見ていくうちに、大手よりも個人経営のほうが自分に合いそうだなと思うようになりました。
最終的に「ここで働きたい」と思った5社に履歴書を送ったところ、2社から面接の連絡をいただき、そのうちの1社で3月から働かせてもらっています。
――転職活動において「履歴書」は大きなポイントになると思います。どんなところを意識して書きましたか?
希崎 履歴書に何を書くかはとても悩みましたね。セクシー女優だった11年間を空白にするわけにはいきませんし。結局、正直に全て書くことにしました。
書いたら転職活動ではマイナスになるかもしれない。でも、私は11年間、セクシー女優をやってきたのは事実だから、それを理解して、受け入れてくれるところじゃないと就職はできないと思いました。それで駄目なら、こちらから「大丈夫です」という気持ちでしたね。
だから、履歴書には「私はセクシー女優の希崎ジェシカとして活動していました」と正直に書いて、恵比寿マスカッツでの活動や、11年間でやってきたことを全部書きました。あとは、実際に私のことを見てもらったほうが早いと思ったので、InstagramとTwitterのアカウントも書いて、「こういう仕事をやってきたので見てください」と。そうしたら2社から返答があったので、うれしかったですね。
――「転職の相談をした人はいなかった」とのことなので、履歴書も試行錯誤しながらつくられたんですね。
希崎 そうですね。たぶん、セクシー女優で履歴書に前職の名前を書いて就職した人って、いないと思います(笑)。だから参考にできるものがないので、いろいろと悩みました。今、セクシー女優を続けている方にも、「こういう方法もあるよ」という1つの例になるといいですね。
――とても参考になると思います。面接ではどんなことを聞かれましたか?
希崎 まずはマネージャー職の方と面接して、その後に院長と面接という流れでした。院長からは最初に「あなたのことを全く知らなくて申し訳ない」と言われて、セクシー女優時代のことはほとんど聞かれませんでした。
私は事前にネットで面接対策も読み込んで、セリフを丸暗記して臨んだんですが、実際はそれを言う機会はなくて、普通に会話をする感じでした。院長からは「演技もやっていたのなら、うちのフロント業務もきっとできるよ。焦らずやっていきましょう」と言っていただいて、採用が決まりました。
――面接で最も評価されたポイントはどこだと思いますか?
希崎 謎です(笑)。ただ、美容クリニックとは関連のないセクシー女優という職業でも「11年間続けたこと」を評価してもらえたのかなと私は勝手に思っていて。
入社後に院長に「私の第一印象はどうでしたか?」と聞いたところ、真面目だと思ったそうです。あとは、「セクシー女優だったことも正直に言ってくれたのがよかった」とも言ってもらいました。働いているスタッフ全員も私の前職を知っているので、隠す必要がなくて、とても楽ですね。
自分の経歴を隠すことなく、正直に話して、理解してくれる転職先と出会うことができた希崎さん。働きはじめてからの戸惑いや、今後の目標など、後編も盛りだくさんの内容です。