コスプレイヤーを中心に「女性を撮る女性カメラマン」として、注目を集めている羊肉るとんさん。彼女の写真が放つ柔らかな透明感は、男性だけでなく女性からも根強い人気を集め、Twitterのフォロワー数は11万人を超えています。
そんな彼女はこの春から、セクシー女優とコラボしたデジタル写真集『Count Sheep』を刊行。同作はこれまでのグラビアとは少し違い、女性目線で写真づくりをしていることが特徴です。
るとんさんは自身を「底辺女カメラマン」と称しますが、その謙虚な姿勢以上に、インタビューを通して見えてきたのは「女性ファースト」な姿勢。コスプレイヤーとしての被写体経験から、「女性がされて嫌な撮り方はしない」と決めています。
彼女が女性モデルから信頼を集める理由、また『Count Sheep』の撮影の様子について、お話を伺いました。
「人間関係が面倒になって…」コスプレイヤーを引退し、カメラマンになった理由
――ご自身も、もともとはコスプレイヤーだったと伺いました。
羊肉るとん(以下、るとん) そうですね。20歳のとき、知人から併せ(※)に誘われ、コスプレイベントに行ったのがきっかけです
※複数人数でコスプレすること。同一作品や同一ジャンルなど、特定の縛りの中で配役を決めて行う。
イベントに行ったその日にTwitterのアカウントを作り、コスプレの自撮りを載せてみたら、その作品の作者さんとOVAの監督さんがリツイートしてくれて。 自分はずっとただのオタクだったので、初めて制作側の方からリアクションをいただいたことで、「コスプレってすごい!」って感動したんですよね。
――それは沸きますね!
るとん コスプレを楽しむうちに、写真を撮られることだけじゃなく撮ることにも興味を持つようになって。1年と少しくらい、コスプレイヤーとして活動していました。その後、コスプレイヤーの方は引退して、カメラマンとしての活動が徐々に増えていったんです。
――なぜコスプレイヤーを引退して、カメラマンになったのでしょうか。
るとん 人間関係が面倒になってしまったからですね。
――(笑)
るとん コスプレイヤーとして活動するうちに、撮影会を主催したり、コスプレカフェの立ち上げに関わったり、コスプレバーで働いたりすることで、活動の幅が少しずつ広がっていったんです。その中で、人のギスギスした面がいろいろと見えてくるようになってしまって。
――なるほど…。
るとん コスプレイヤーを引退してからも、仲の良かった子たちとの繋がりは続いていたので、頼まれる度にコスプレやポートレートを撮影させてもらってました。
それまでずっと、撮る側も撮られる側もSNSに掲載するのが当たり前の世界にいたので、自分がカメラマンとして撮った写真をどこにもアップできないのも寂しいなと思ったんです。そうして初めてカメラマンとしてのアカウントを作りました。最初は記念に写真をツイートしていく程度のつもりだったんですけど、少しずつフォロワーが増えていって、気がつけばこうしてSNSを活用しつつカメラマンとして活動しているような形に。
「こうしたほうが盛れる」女性ならではの感性で、女性が理想の姿になる手助けを
――そもそもるとんさんは、なぜ女性をメインに撮っているのでしょうか?
るとん 単純に可愛い、綺麗な女性に惹かれるというのと、女性の身体の造形にとっても魅力を感じるからですね。セクシーな衣装も好きなので、もし私がもっと可愛くてスタイルが良かったら、自分でそういった衣装を着たりしていたかもしれません(笑)。実際は自分ではとても着こなせないので、憧れますね。
――るとんさんの写真は露出が多い写真もありますが、どれもふんわりとした淡い色合いで、なんだか今まで持っていたグラビア写真に対するイメージとは違いました。
るとん 私、ストロボをあまり使わずに、自然光のみで撮影していることが多いんです。レタッチでは、見せたくないものはどんどん消しちゃう。男性の方って、まつ毛の一本一本や毛穴までくっきり見えるような、生々しい写真にエロスを感じる方が比較的多いんです。でも、私はもともと自分自身が撮影される側だったのもあって、そういう写真には少し抵抗があって。女性だったら絶対、毛穴なんて見られたくないじゃないですか。
――わかります、わかります。
るとん そういう女性視点の「こうしたほうが私は好きだな」みたいな感覚を頼りに作品を作っている感じですね。正直、カメラマンとしてのスキルはあまりないですし、がっつりグラビアを撮っているようなプロの方には全く評価されないと思います。でも、そのやり方がモデルさんたちから「るとんに任せておけば絶対嫌な写真は撮られないから、信頼できるよ」って言ってもらえて。
――同性だから感覚的にわかる部分があるのは、貴重な武器ですね。撮影中はどんな雰囲気ですか?
るとん 女子会みたいな雰囲気で、ラフに雑談しながら撮影していることが多いですね。要望があった場合は、撮った写真をその場でお渡しして、スマホアプリで加工してもらうこともあります。そうするとその人がコンプレックスを感じている箇所や、好みの雰囲気がわかるので、それを参考にレタッチさせていただいたりします。写真のセレクトもモデルさんご自身にしていただくことが多いです。
モデルさんが理想の姿になれる手助けをして、喜んでもらえるのが、私にとって一番大切なこと。だからモデルさんが「ウエストをもっと細くして」と言ったら細くするし、「顔をこんな風に加工して」と言ったらそうしちゃうことが多いです。もちろん、違和感を覚えない範囲で、ですけどね。
――その女性ファーストな姿勢も、モデルの新たな魅力を引き出せている一因かもしれません。結果として、るとんさんの撮る写真には男女問わずファンがついています。
るとん 自分が女性カメラマンで良かったと思うことは多々ありますね。男性ファンから嫉妬されにくい、というのもメリットの一つです。撮影にはそれなりに時間がかかりますし、泊まりがけで行うこともあるので、男性カメラマンに撮られることを嫌に思うファンの方もいらっしゃるじゃないですか。だから人気の女性であればあるほど、「るとんさんなら安心です!」って言ってもらえています。
「乳首にピントが合ってる…!」 『Count Sheep』は“最高に幸せ”な仕事
――るとんさんがカメラマンを担当されている、『Count Sheep』について教えてください。
るとん セクシー女優さんを撮影したデジタル写真集です。1人につき2パターンの写真集を発売していて、これまでに伊賀まこさん、岬ななみさん、坂道みるさんなど19人の女優さんを撮らせていただきました。「女性を可愛く撮れるカメラマン」ということでお話をいただいて、最初の撮影からもう一年以上続けさせてもらっています。女優さんのお好きな雰囲気や、やりたいことに合わせて、毎回衣装や髪型、スタジオなどを考えています。
――女優さんがやりたいこと…たとえばどんなことでしょうか?
るとん セクシー女優さんって、基本的に髪色を変えられないんですよ。黒髪の方だったら、ずっと黒髪でいなきゃいけない。だから最初の3着は地毛、残り2着はウィッグをかぶって、普段できないような髪色にしています。
――衣装やセットも可愛いですし、女性が見てもテンションが上がる写真集だと思います。
るとん 一般的にアダルトビデオの現場で着る衣装は過激なものが多いので、『Count Sheep』では女優さん自身が希望するスタイリングを重視していますね。スタイリストさんは私の方でお声がけさせていただいた方なのですが、これまでアダルト系の衣装を組んだことがなかった方なんです。だからこそ先入観がないスタイリングをしてくれるし、回を重ねるごとにどんどん意見交換をしやすくなって、「こっち下着の方が映えるんじゃないか」とか、「首元にリボンを巻いても可愛いんじゃないか」みたいに、アイデアを出し合っています。
――なんかもう、その打ち合わせからすでに楽しそうです。
るとん 楽しいですよ! ヘアメイクさんも『Count Sheep』の企画意図に共感してくださって、こちらがオーダーする前から「実はこのリボン買ってきちゃったんだよね」ってノリノリで準備してくださる方もいらっしゃったりして。女優さんの希望を聞きながら、現場のみんなで形にしていく過程は本当に楽しいです。
――普段るとんさんはコスプレイヤーさんを撮影していると思いますが、被写体がセクシー女優さんだからこその発見はありましたか?
るとん コスプレイヤーさんは衣装を着こなす力が素晴らしいのですが、セクシー女優さんはやはり衣装を全く着ていない状態、ヌードの姿を魅せることが本当に上手な方が多いですね。スタイルの良さももちろんですが、肌も綺麗で、もうその方自身が作品として仕上がっているな、と感じます。個人的には、初めての撮影で乳首にピントを合わせた瞬間にかなり感動しましたね。今までも撮影現場で女性の裸を見ることはあったのですが、乳首のみを接写することはなかったので。初めて乳首を写真に収めたときに、「あっ、今乳首にピントが合ってる!」って思って。
――(笑)。ポーズや目線は指定されるんでしょうか?
るとん 女優さんによりますね。こちらが提案しながら撮影していく場合もありますし、女優さんご自身が撮影に慣れていて、ご自分の世界を持っている場合には、それに合わせることもあります。
素晴らしい被写体さんって、「カメラマンに写真を撮らせる力」みたいなものが強い気がしているんです。「あっ、今シャッター切らなきゃ!」って強迫観念が湧いてしまうくらい。なので、むしろ私が女優さんに付いていくのに必死なこともあります。
――『Count Sheep』について、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
るとん 第1回、伊賀まこさんのときですね。撮影後、私がTwitterで宣伝していた写真集にまこさんが興味を示してくださって、マネージャーさん経由でお渡ししたのですが、後でまこさんご本人からお礼にとビールの詰め合わせを送ってくださって…。
まこさんの心配りもありがたいですし、そういう交流自体が嬉しいですよね。みなさん、なかなか普段お近づきになれないような素晴らしい女優さんたちなので、ミーハーな私としてはすごく幸せなことでした。
――女優さんからしても、いつもと違う視点で撮ってもらえて、良い経験になっているのかもしれません。
るとん 本当にありがたい企画だなっていつも思っています。素敵なスタジオを自由に選べて、可愛くてスタイルの良い女性の身体を撮影できて、スタイリストさんもヘアメイクさんも付いてくださって、これでお金がいただけるなんて、最高に幸せな仕事です。
お世話になった方に恩返しするためにも、勉強しなきゃいけない段階が来た
――同人制作をルーツとしているるとんさんですが、これからの活動について、どう考えていますか?
るとん “羊肉るとん”としての活動は、人気がなくなったらいつでも辞めようと思ってます!
――ええっ。そんなときは来るんでしょうか…。
るとん なので、仕事がなくなったらどこに就職しようかな、くらいに考えています。自分としては「プロカメラマンになった!」というよりは、なんとなく成り行きで仕事をいただけるようになり、成り行きで食べられている感じなんです。
――いわゆる“職業カメラマン”とは違う。
るとん 私はどちらかというと写真家寄りの活動の仕方で、「私の作風を好きな人だけ、私の写真を見てくれていれば良いかな」と思っているんです。カメラで食べていこうとしている方って、もっと多様な技術を身につけ、様々な道を模索して、そうやっていろんな仕事をこなしている方が多いと個人的には思っているんですよね。私はカメラで食べていきたかったわけではなく、自分の好きな写真を撮ってきただけなので。
とはいえ2年近くフリーランスカメラマンとして活動してきて、いろんなチャンスをいただいたことで、最近は「必要とされるなら、できることを増やしていかなければな」と思い始めています。
それは自分がこの先食べていくためというより、これまで仕事をくれた企業さんへの恩返し、みたいな意味合いが強いかもしれないですね。ちゃんと勉強しなきゃいけない段階が来たな、と。本当にレベルの低い話なんですけど。
――これからやってみたい作品の構想があれば、教えてください。
るとん 1人のモデルさんと、1年間を通して撮影して、それを1つの作品にまとめてみたいですね。仲の良いモデルさんはいるんですけど、年単位で一緒に作品づくりをしてくれる気概があって、私のタイプの顔でタイプの体型で、スケジュールも合って…と考えるとなかなかいなくて。画家にとってのミューズのように、1年間を通してその子のいろいろな表情や、四季折々の服装を、季節感と一緒に楽しめる写真集を作ってみたいです。