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「恵比寿マスカッツ」は終わらない。AV界のドリームチームが辿った軌跡

2021年が「AV誕生40周年」という節目の年にあたることをみなさんはご存知だろうか。AVは、これまで決して日向にあり続けるメディアではなかったものの、切実に必要とする人は常にいたし、これからもそうであるに違いない。

その意味で、AVはかけがえのない存在であり、そのなかでいつも輝き続けていたのがセクシー女優たちだ。

そんな彼女たちが日の当たる場所に足を一歩踏み入れ、エンターテイメントにおけるセクシー女優のあり方をがらりと変えることになったきっかけ、それが「恵比寿マスカッツ」だ。

文・大坪 ケムタ

AV界のドリームチーム「恵比寿マスカッツ」、TV界に降臨!

「恵比寿マスカッツ」は、2008年に誕生して以来、何度かの変革期を迎えながらも、それぞれの時代のトップセクシー女優を中心に結成されてきた、いわば「AV界のドリームチーム」。たとえば、最初のレギュラー番組である「おねがい!マスカット」第1回放送に登場した1期生メンバーには、蒼井そらさん、麻美ゆまさん、小川あさ美さん、佐山愛さん、西野翔さん、Rioさん、吉沢明歩さんといった、AVファンなら誰もが知る当時のトップ女優がずらり。

数十年前も、テレビにセクシー女優が出ること自体はそれほど珍しくはなかった。ただ、彼女たちはバラエティ番組や2時間ドラマにときおり差し込まれる温泉シーンなどでの「お色気担当」であることがほとんど。

そんななか、「おねがい!マスカット」は彼女たちにお色気担当以上の役割を求めて生まれた番組だった。総合演出を手掛けるのは、「とんねるずのみなさんのおかげでした」をはじめ数々のバラエティ番組を生み出してきた歴戦のディレクター、マッコイ斎藤さん。とんねるずや極楽とんぼら人気タレントが体を張った番組で知られる彼が、生ぬるい番組を作るはずがない。

番組がはじまって最初にマッコイ斎藤さんがセクシー女優たちに叩き込んだのは「はじめまして」「こんにちは」「よろしくお願いします」という「あいさつ」だった。というのも、AVの撮影現場では、常にセクシー女優が主役。そんな彼女たちのあいさつが仮におろそかになったとしても誰もとがめることはないが、テレビ番組ではそうはいかないからだ。

スタジオに集められたのは当時のトップ女優ばかり。普段のAVの撮影現場では控室が個室であるなど、撮影自体はハードであるものの、さまざまな面でセクシー女優が優遇されるのが普通だ。

ところが、「恵比寿マスカッツ」の楽屋は、全員が一緒に待機する、いわゆる「大部屋」。今でこそ多くなった複数のセクシー女優による共演作だが、当時は年に1回あるかどうか。つまり、彼女たちにとってまるで慣れない環境での撮影が毎週行われていたのだ(初期はまとめ撮りではなく毎週撮影していた)。

そんな従来とはまったく違う状況に慣れるために、最初に仕込まれたのが「あいさつ」。普段の現場と違って、バラエティの現場において、あいさつはバラエティの姿勢を学ぶための大切な儀式だったというわけだ。

それぞれ個性を発揮し、TV界で存在感を強めていくメンバーたち

決してお笑いのプロではない女優たちと、お笑いのプロであるスタッフたちとの掛け合わせ。司会は当時人気上昇中だったおぎやはぎさん、大久保佳代子さん(オアシズ)と腕に覚えのあるメンバーたち。

それだけに「君らは素のキャラを出せばいい、あとは我々が料理するから」というマッコイ斎藤さんらの自信は徐々に形になり、女優たちもお笑いのスキルを学んでいく。

いち早くバラエティ番組の勘を掴んでいったのがRioさん。文句なしの美形に加えてトークのなかから相手がほしいものを見抜くセンスは天下一品だった。

逆に、そのマイペースさが番組のなかでも輝いたのが吉沢明歩さん。どんな無茶振りな企画でも“きれいなお姉さん”としての姿を崩さない孤高さは、バラエティ番組でさらに光を放った。

その感情の豊かさで視聴者を虜にした2代目リーダー、麻美ゆまさん、マッコイ斎藤さんがそのバラエティセンスを絶賛したかすみ果穂さんといった面々が番組のなかでキャラを確立するにしたがって、バラエティ番組として人気を高めていった。

そんななかでやはりメンバーの軸になったのは初代リーダー、蒼井そらさんの存在である。番組スタート当初、すでにAV界の顔であった彼女。その気の強さもあってマッコイ斎藤さんともたびたび衝突したこともあったそう。

にもかかわらず、水を浴びたり、パイを顔面に投げつけられたり、一斗缶やダンボールに突っ込んだりといった、バラエティのいわゆる「ヨゴレ」役を率先して担っていったことが、彼女がリーダーとして認められた理由のひとつだった。

また、メンバーを食事に誘ったり、当時普及しつつあったTwitterをはじめて「みんなもやろうよ~」と呼びかけたりと、番組の外でもリーダーらしく振舞っていたという。

当時のAV業界では、「恵比寿マスカッツ」のトップ女優たちによる共演作がほとんどなかったこともあり、女優同士のフランクな交流は稀だった。しかし、初代「恵比寿マスカッツ」が活動した2008年から2013年といえば、ガラケーからスマホへ、ブログからTwitterなどのSNSへと比重が大きく移ったネットメディアの変革期。当時の慣例を打ち破り、時代に寄り添うように、女優たちをひとつの「同志」としてまとめていったのが蒼井そらさんだった。

ちなみに最近でも蒼井さんはYouTubeでマッコイ斉藤さんと共演した動画をアップするなど、両者の関係は今も続いている。

大きな成長のきっかけは、本格的な音楽活動

初代「恵比寿マスカッツ」メンバーたちの意識を大きく変えたのが、番組放送開始から約2年後に満を持して発売されたファーストシングル「バナナ・マンゴー・ハイスクール」のリリースに端を発するライブ活動だった。それまでもセクシー女優がソロやグループを組んでCDをリリースすることがなかったわけではない。しかし、それは宣伝活動の延長にある、いわゆる「企画もの」にすぎなかった。

ところが、「恵比寿マスカッツ」は代官山UNITでの持ち曲2曲のデビューライブからステージを重ね、ついにはZepp TOKYOといった大型ライブハウスにも出演。これら本格的なライブ経験が、メンバーの意識を変えたことは間違いない。

音楽活動はテレビ番組の延長のように思われるが、ひとつ大きな違いがある。それは、音楽活動では、楽曲の真んなかに立つメンバー、いわゆる「センター」はあくまでもひとりであることだ。

番組ではある程度、どのメンバーも目立つように週ごとにコーナーなどが割り当てられるが、曲ではメンバーによって歌割りが多い人少ない人がいて、サビや歌い出しといった目立つパートに選ばれる人とそうでない人ではっきりと差がついてしまう。

ただ、その差をメンバー同士が互いに理解するようになると、グループの結束が強くなる。セクシー女優であるときは一人ひとりが主役を務めるが、「恵比寿マスカッツ」は全員で作り上げる集団芸。みんなでひとつのものを作り上げる意識が生まれるのにともなって、さらに番組やライブは盛り上がりを加速させていった。

しかし、バラエティ的な空気になじめなかった人もいないわけではない。「今回から新メンバーの○○ちゃんです!」と紹介された子が、いつの間にかいなくなってることも少なくなかった。

ただ、結果的に合わない子が不本意ながらも無理に出演し続けることがなかったことは幸いだったのかもしれない。番組に出るメリットや成長過程と理解できた子だけが参加し続ける、ある意味、自主的な学校だったといえるだろう。

そうした方針の影響もあったのか、1期メンバーがセクシー女優として活躍した期間はおしなべて長い。番組に出演することで、本業により高い意識をもって続けられたのかもしれない。

第1世代と呼ばれる初代「恵比寿マスカッツ」は、「おねがい!マスカット」「おねだり!!マスカット「ちょいとマスカット!おねだりマスカットDX!」「おねだりマスカットSP!」と番組名を改変しつつ、9枚のシングルと2枚のアルバムをリリース。そして2013年に中野サンプラザで解散を発表し、舞浜アンフィシアターでの解散コンサートで幕を閉じた。

その規模はメジャーアイドルと比べても遜色ない堂々たるもの。また、「恵比寿マスカッツ」メンバーとして登場したセクシー女優、グラビアアイドルは80人以上にのぼる。

第2世代「恵比寿★マスカッツ」の誕生

それから2年後、2015年に第2世代として再始動したのが、真んなかに星がついた「恵比寿★マスカッツ」。第1世代同様トップセクシー女優に加え、全国オーディションを勝ち抜いた新生メンバーが参加するなど、あらためて第1世代が与えた影響力の大きさを感じさせたものに。

実際、この頃にはそれまでAVに興味ない層にも「恵比寿マスカッツ」の名は知れ渡っており、それまでセクシー女優に興味関心がなかった層でも、蒼井そらさんや麻美ゆまさんといったメンバーの顔と名前が一致する程度になっていた。

「恵比寿★マスカッツ」の名を広く知らしめるのに大きく貢献したひとりが、4代目リーダー、明日花キララさんだ。

第1世代と第2世代の人気の広がりにおける大きな違いは、先にも書いたSNSとスマホの存在。TwitterやInstagramでは、「タレントだから」「セクシー女優だから」という区分けなく、そのビジュアルや発言への賛美や共感が拡散される。

そうした変化のなかで明日花キララさんのルックスは、一部で「女性がなりたい顔ナンバーワン」と言われたことも手伝い、たちまち知名度を得て、グループ再始動と共に人気がヒートアップ。

また、川上奈々美さん、葵つかささん、神咲詩織さん、小島みなみさん、白石茉莉奈さん、由愛可奈さんといった人気女優たちは、第1世代の「恵比寿マスカッツ」をよく見ていた世代だけに対応力も高かった。

音楽フェスで超メジャーアイドルと同じ舞台に!「恵比寿マスカッツ」は新しいフェーズへ

また、この時期の「恵比寿マスカッツ」にあった大きな変化のひとつがフェスへの出演だ。当時は、大規模な音楽フェスが全国で多く立ち上がった時期。そんななかで「セクシー女優×SNS×テレビ」の掛け合わせによって高い知名度を持つ「恵比寿マスカッツ」には、大いに注目が集まった。

さまざまなライブ・フェスのなかでとくにインパクトがあったのが、世界でもっとも多くのアイドルが一堂に会するフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」への出演だ。「スパークリングNight!」という表向き別枠ではあるが、彼女たちが欅坂46(現・櫻坂46)、AKB48、BiSHといった超メジャーアイドルと同じステージに立った意味は大きい

さらにこの時期、ロックフェスにも初参戦を果たしている。西川貴教さん(T.M.Revolution)の「音楽を通して地元に恩返しがしたい」という想いがきっかけで始まった「イナズマロックフェス2016」では、西川さんはもちろんファンキー加藤さんやゲスの極み乙女らと並んで出演している。

そういえば、第1世代「恵比寿マスカッツ」は、氣志團とツーマンライブを行うなどアーティストからの支持も厚かった。こうしたフェス以外にも、全国ツアーや台湾公演も敢行するなどして、国境を越えて愛されるセクシーアイドルとしての地位を築いていく。

そんなライブ強化の軸となったメンバーが、途中加入した三上悠亜さんだ。元メジャーアイドル経験者だけあって、そのパフォーマンスは圧巻。他のメンバーにダンスを指南することで、彼女はさらに成長を重ねていったようだ。

第1世代が築き上げた「恵比寿マスカッツ」のフォーマットを最初から理解していた第2世代。集団で魅せることに早くから適合し、幅広いライブステージをこなすことで、さらにパフォーマンスに磨きをかけることとなった。

初代メンバーの加入により「恵比寿マスカッツ1.5」が始動

第1世代同様、「マスカットナイト」「マスカットナイト・フィーバー!!!」「恵比寿マスカッツ横丁!」とリニューアルを繰り返す番組を軸に活動するなか、まさかの展開だったのが第1世代のみひろさんが正メンバーに参加し、PTAとして蒼井そらさん、麻美ゆまさん、Rioさんが登場したこと。これを機に第1世代と第2世代が交わる「1.5世代マスカッツ」にシフトチェンジし、現在に続く「恵比寿マスカッツ1.5」へと再編される。

第1世代メンバーの再加入は、かなり例外的なこと。どうやらそこには、マッコイ斎藤さんとみひろさん、ふたりの「恵比寿マスカッツ」への特別な思いがあったようだ。

番組に当初から参加しながらも、演技者としてマッコイ斎藤さんのバラエティ論になじめなかったというみひろさん。結果的に、ラストライブを待たずに途中卒業することになるが、その後マッコイ斎藤さんとは和解。そこで第2世代に加わるというプランが生まれ、あらためて出演ということになった。

モーニング娘。やAKB48など、最近のアイドルにとって次々にデビュー・卒業を繰り返して新陳代謝していくことは珍しくない。ところが、ディレクターとメンバーが和解して再加入という流れはあまり聞いたことがなく、そこには家族的な結びつきの存在さえ感じられる。

また番組も、それまでのテレビ東京系列からAbemaTVに枠を移し、「恵比寿マスカッツ 真夜中の運動会」として再始動。全国どこからでも視聴することができるうえ、テレビのコンプライアンスに縛られることなく放送できるようになった。

現在は、市川まさみさんを5代目リーダーとし、川上奈々美さん、羽咲みはるさん、架乃ゆらさん、栄川乃亜さん、深田結梨さんといったメンバーに、第1世代のみひろさん、希島あいりさんらを加え、より充実した番組にアップデート。現在はAbemaプレミアム限定で配信中だ。

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2021年4月で誕生14年目を迎える「恵比寿マスカッツ」。彼女たちが出演する番組を「セクシー女優らによるアイドル風バラエティ番組」とひとことで片付けるのは簡単だ。

しかし、番組を深夜にふと見かけた少年少女たちは「ここに出ているエッチなお姉さんたちは、他のアイドルや女優とはなにか違うな」と感じ、さらにこう思うに違いない。

「他の美人さんたちが言わないようなエッチで面白いことを言いまくって、なんて自由なんだろう」と。

そこに見えるのは、自分たちの父親や母親とは明らかに違ったオトナの姿。もしかしたらそれは、「憧れ」と言い換えられるかもしれない。

そして、思う。10年を越えて番組が今もなお続いているのは、この国が「恵比寿マスカッツ」にしか作れない笑いや癒やし、安らぎを求めているからではないだろうかと…。