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先生、私、まだ女子校生でいたいよ。―Short story―

SERIES -fempassCinema

著・湊いずみ

田舎の高校はつまらない。

テレビを見ても東京の特集ばかりで面白くない。
ここは刺激が少なすぎる。

「先生、私、部活に行っても楽しくないから、こうやっておしゃべりだけしてたい。」

「先生、私、まだ女子校生でいたいよ」

つまらない毎日が続いていく。

華の学生生活が送れると思っていたのに。

一個上の先輩と付き合っても、おままごとをしているみたいでパッとしなくて別れちゃったし。
青春の代名詞とも言われてる(気がする)男子運動部のマネージャーになってみても、それなりにチヤホヤはされるけど、所詮歳がそんなに変わらない同級生からモテても思ってたよりも嬉しくないし。
いつも一緒にいるクラスメイトとバカみたいに騒いでるのも、”今しかできない”ということを理解しているからやっているだけ。

青春時代を送れずにこじらせるような大人になりたくないから。

”女子校生”を毎日消費していくだけ。もったいない。

暇つぶしでマッチングアプリをインストールした。
出張で地方にやってくるサラリーマンを狙って食った。
大人はみんな、”女子校生”が好きだ。

犯罪になるかもしれないのに、危険をおかして女子校生を抱く愚かな大人たち。
最初は、「ダメだよ」なんて言ってても、こちらから甘い言葉で誘えば、簡単にだらしない顔をして、腰を振りだす。
大人なのに、理性が効かなくて、バカで可愛い男たち。

でも、それが愛おしい。

私の大事な”女子校生”としての時間に価値を付けてくれて、心を満たしてくれて、こんな最高なことない。

「3組のアイツ、いつも違う大人と街で歩いてるらしいぞ。」「えっ、エンコー?」
と下品な記号で私の噂をする他クラスの生徒たち。
田舎は遊ぶ場所なんて限られてて、学校をサボって大人と歩いていれば、誰かに見られて噂になる。そんなことわかっててやってるんだよこっちは。

とはいえ、年上のバカな大人にしか興味が湧かない性癖を抱えてる私だって、そのことを自覚しつつ、人並みに同級生と恋愛してみようとトライしたことだってある。
クラスメイトの、勉強も運動もできるモテ男を、両思いの女の子がいるのを知ってて狙って、寝た。
なんでもできちゃうタイプだと自他共に学校内で評価されるその男の子は、
脱がせてみると童貞で、向こうも思春期特有の”興味”でこちらの誘いに乗っただけの、ただの男子校生だった。

ベッドの中でいい雰囲気が流れていたのにぐずぐずして一向に手を出してこない相手にイラっとした。
自分から誘うのは本意ではなかったけど、キスして、セックスに持ち込んだのに、翌朝から私はクラスで”ビッチ“呼ばわりされていた。
他の子から聞くと「あいつは自分から誘うような女だ」と言いふらしていたらしい。

まあ結局は、同い年の18歳の男子なんてそんなもんか、と冷めるための証拠集めになっただけだった。

「ねえ、先生、アプリで知り合った外国人が、私に会いに日本まで来てくれるみたいなの」

「見て、かっこいいでしょ?」

いつちょっかいをかけても、どんなあぶなっかしい言葉を発しても、
先生は、”先生”のままで、全然なびかない。悔しい。

校則違反のピアスを開けてる生徒にも、ナイショでバイトしてる生徒にも、
こっそり「上手いことやれ」と言って黙認してくれるような先生。

私は、勉強は嫌いだし、学校もよくサボるけど、先生の教科だけは欠席したことがない。
先生に褒められたくてちゃんと勉強してるし、教え方が上手いから、授業でわからない部分なんてない。

でも、先生と話したいから、バカなフリをして、

「ねぇ〜、ここ全然わかんないよお〜!」

と横にすり寄る。

丁寧に教えてくれる低い声も、「お前なら理解できるところだよ」と褒めて伸ばしてくれるのも、
ケラケラと向けてくれる笑顔も、”先生”らしさを引き出すシャンとしたシャツも、どれもがよくて、全部目の前がパチパチ輝いてみえる。

先生は、”先生”として私に接してくるけど、少年ぽい部分も残っていて、そこが魅力。

先生、授業で教えてもらったことは全部わかってるよ。
だから、先生がどうしたら、私の虜になるのか教えてよ。

そう言ってしまいたい。
わたしには別に失うものはない。

暑い夏に、クーラーの効いた準備室で、とりあえず内申のために続けている部活のグチとか恋バナを適当にする。

あぁ、欲しいな、先生の、心まで丸ごと食べちゃいたいなぁ。
暑い日にはアイスを食べたいし、寒い日は人のポケットに手を入れたいし。
それくらいの軽くて甘い衝動に駆られながら、今日もほどよい距離感を保ったまま、先生に「バイバイ」と言って帰る。

これは恋じゃない。恋愛がしたいわけじゃない。

手に入らなさそうな…でも身近にいる大人が欲しくてたまらない。
後腐れのない出張サラリーマンを食って、リリースするのもそろそろ飽きた。
難易度の高い男が欲しい。

ねえ、先生。
勉強だけじゃなくて、どんな情けない顔を見せてくれるのか教えて。
どうやって教え子の誘惑に堕ちていくのか見せて。
終わった後にどんな後悔をするのか聞かせて。

先生がこれまで築き上げてきたその全てを、壊してもいいと思えるほどの魅力はわたしにはないの?
生意気な小娘をぐちゃぐちゃにしてしまいたいと思うことはないの?

ピン、と弾けば飛ぶような、ゆるやかな破壊衝動に駆られて。

今日も体育の授業をやってる他クラスを教室から見下ろして、
学校いるの飽きたからと適当な男に学校まで迎えに来てもらって、
そのまま男の家でセックスをして帰る。

こんな生活を送ってる私を怒ってよ、先生。

私は、相手の性格や人柄はどうでもよくて、
こちらの誘惑に乗ってこない”理性”というバリアをこちらにキチンと見せてる大人が好きなんだ。
そういう大人がぐらりと負けるさまをこの目に焼き付けたいだけだ。

なのにいつのまにか、

自分も大人に近づいていくたびに、
親が言うことが全て正しいわけじゃないと知って、
心配して声をかけてくれた大人がただのゴシップ好きだと気付いて、
そういう見たくなかったことが見えてしまうようになった。

バカなフリしてるのが、一番身の丈に合っているし楽しいのに、
社会性を求められて、将来のことも明確に考えていかなきゃいけない。

先生へ向けた憧れも、一時的な発作として処理するだけになっていくなんて、悲しいよ。

先生、私、まだ女子校生でいたいよ。

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YouTube版「先生、私、まだ女子校生でいたいよ」本編はこちらから。

YouTube「先生、私、まだ女子校生でいたいよ」

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ショートシネマ『fempassCinema』2022年12月23日より配信スタート!

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fempass制作のショートシネマが公開。
登場人物たちが繋がり、離れては、絡み合い、世界を彩っていく様子を映し出す。