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(2/2)あなたを好きでいたかった ―Short story—

SERIES -fempassCinema

チャイムが鳴った。

こんないいタイミングに宅配便を指定しちゃうなんて彼も抜けているところがあるな、なんてぼーっとしていたら、玄関からドアノブをガチャガチャと鳴らす音が響いてくる。

やけに過激な宅配便だな、いや、迷惑な隣人?

あまり家に私を呼びたくなかったのはガチャガチャしてくるやばい奴がいるからなのかな、セキュリティの問題とかあるし。

彼が明らかに動揺しながら玄関へ向かう。

てことは、本当になにかあったのかな。

 

なんだかゾワゾワと嫌な予感がする中、彼の動きを目で追っていると、

彼の携帯が知らない女の名前を表示しながら震えだす。

玄関からバタバタと戻ってくる彼。手にはなぜか私の靴を持っている。

ソファに脱ぎ散らかした私の服やカバンをまとめて、ベランダから出ていけと言う。

 

状況が理解できずに少しの抵抗を見せると彼が口を開いた。

 

「彼女が帰ってきた」

 

あれ?彼女って、彼女って、?

わたしって彼女じゃないんだっけ。

私以外のだれを‟彼女”と形容してるの?

「彼女…?」と尋ねると、

彼が微かにイラっとした顔を見せた。

 

私はこの顔をする人たちを知っている。

昔から物わかりの悪い私が色んな人から向けられてきたあの顔。

諦めと苛立ちが混ざったあの顔。

学生のときにハブられていた女の子を哀れに思って話しかけたときのいじめっ子リーダー格の子の顔。

初めて就職した会社で同じミスを繰り返してしまった時の上司の顔。

貸したお金の返済を催促した時の元カレの顔。

状況も人も違ってるのに何度も見てきたあの顔を、大好きなこの彼も私に対して向ける。

 

ただ彼の言うままに動くしかなかった。

荷物をすべて押し付けられて、ベランダに放り出されて、

それでも文句を言えない。

帰ってきたであろう彼女を何食わぬ顔で受け入れている彼を邪魔するために、ベランダの窓を突き破ることもできない。

なんの説明もなく私を追い出すような彼に対して、怒りを覚えない。

彼女が2人いて、「優先すべき」彼女が予期せぬタイミングで帰ってきたから、「優先されない」彼女の私を追い出しただけ。

ただそれだけだ。

わたしはなんて弱くてみじめな女なんだ。

将来とか大事な話をしようとしたらかわされるし、

写真も苦手だから、と断られて一緒に撮ったことはほとんどないし、

遠出のデートも渋るし、

今日まで自宅に呼んでくれたこともなかった。

 

いままでふんわり感じていた、彼への違和感が、

こんなことになってからすべて繋がって。

さっきまであんなに幸せで、今日のことは忘れたくないなんて思ってたのに、

別の意味で忘れられない日になってしまった。

 

彼女は、私じゃなかった。

なのに、彼のことを嫌いになることができなくて。

彼から「説明させてほしい」と言われて、結局また自宅に招き入れてしまった。

もしかしたら、本当の彼女と別れてきてくれるんじゃないかとか淡い期待をして。

自分に都合のいいような妄想をしていた。

そんな妄想も、彼の一言目で打ち砕かれた。

あの彼女は、彼女という枠ですらなくて、‟婚約者”だった。

「婚約者だけど、入籍日も決まってないし、なんならセックスレスで関係は破綻している」

「でも君のことも大事だよ」

「信じて」

という彼。

そんな状況で私のことが一番大事だと言ってくる彼の言葉を、

わたしはどうやったら信じることができるのだろう。

 

心が苦しくて、痛い。

彼とはいい思い出しかなくて。

大事にしてくれていたのも伝わってた。

愛してると言ってくれたのも嘘じゃないと思ってた。

自慢の彼女でいられるように努力してた。

でももう彼との未来はない。

もうあなたを好きでいられない。

 

あなたを好きでいたかった。

あなたを好きで痛かった。

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