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【後編】経歴を隠すことなく伝え、「受け入れてくれる人」と働くことの幸せ

30歳から“未知の領域”である美容クリニックの仕事へと踏み出した希崎ジェシカさん。セクシー女優として働いた経験しかなく、パソコンの使い方もわからない。そのため、最初は多くの戸惑いがあったという。

それでも、希崎さんは、笑顔で「働くことが楽しい」と言い切る。その裏側には、前職での経験を生かしながら、日々、勉強を続け、新たな世界における“存在価値”を懸命につくろうと努力する、真摯な姿勢があった。

文:廣田喜昭 写真:佐賀章広

「マイナスからのスタート」という気持ちで入社

――未経験の業界で働きはじめて、最初はどんなことに戸惑いましたか?

希崎ジェシカ(以下、希崎) いっぱいありますよ。私は世間一般を知らなすぎて、最初の頃に「社労士さんが来る」と話をされたとき、「シャロウシさん」って人の名前だと思って「珍しい名前ですね」と言っちゃって(笑)。本当に恥ずかしい。知らないことばかりでした

ちゃんとした敬語も知らなかったので、直されましたね。メールで「存じます」なんていう言葉は打ったことがなかったから、ネットで検索して、初めて「思います」という意味だと知ったり。

パソコンも最初は全く使えませんでした。就職する前にパソコン教室で習って、「基礎はできます」と言えるようにしてから面接に行こうかとも迷ったんですけど、入ったらやるしかないから、やりながら覚えようと決めて。今はそれでよかったと思います。やっぱり入って覚えるのが一番早かったと思うので。

――最初は現場の上司に基本業務を教えてもらいながら。

希崎 そうです。最初はパソコンを全部、人差し指で打っていたので、教えてくれた方は初日に「こいつ雇って失敗したな」って思われたでしょうね(笑)。今はだいぶ慣れて、普通に打てるようになりましたけど。

――まわりのスタッフさんも全員、希崎さんがセクシー女優だったことを知っているという話でしたが、“風当りの強さ”を感じることはありましたか?

希崎 それはなかったですね。私は働く前に、セクシー女優はまだ偏見のある仕事で、絶対に「マイナスからのスタート」だと思っていたので、「人一倍頑張ろう」というメンタルで入っています

でも、実際は、私が遅刻しないで毎朝早く来て、お弁当を持っていくと、それだけで「凄いね!」と言われるんです(笑)。それはきっとマイナススタートだからなのかなと思っていて。みなさんが甘い目で、ハードル低く見てくれているのでフランクに話せるし、ありがたい環境ですね。

「希崎さんにしか話したくない」とお客様から指名も

――希崎さんが担当しているフロント業務は、受付、メール対応、カウンセリングなど、さまざまな役割があるということでしたが、1年間働かれてみて、どの仕事が一番好きですか?

希崎 私はカウンセリングが好きですね。お客様によって、悩みや要望、予算は全く違うので、先生の問診を受ける前に、フロント業務の私たちが担当として入り、お客様の話を聞いて、先生との橋渡しをするんです。それがとても楽しくて。

うちのクリニックは大きな手術しかないので、決断するまでに勇気のいる内容ばかりなんです。美容クリニックで施術を受けることによって人生が前向きになれる人もいると思うので、担当に入って、喜んで帰ってもらえると、とてもうれしいですね。

うちのクリニックは指名制ではありませんが、私宛てに電話をくれて、「希崎さんじゃないと話せない」と言ってくれる方もいて、それでリピーターになってくれる方もいるので、やりがいを感じています。

――すごいですね。それは希崎ジェシカさんと気付かれたわけではなく?

希崎 気付かれてないですね。お客様は私のことを誰も知らなくて、1回も気付かれたことがないです。女性のお客様が9割ですからね。

――希崎さん流の「初めてのお客様から悩みを聞き出す秘訣」はありますか?

希崎 最初はカウンセリングがとても苦手で、営業的なマニュアル通りのことしかできなかったんです。でも、最近は、まずは緊張をほぐすところから入って、人を見て、話す内容をいろいろと変えるようにしています

最初は目を合わせてくれない人もいるんですね。だから「場所すぐにわかりました?」から入って、ちょっと冗談を入れたり、小出しにしながら緊張がほぐれていく具合を見ていく感じですね。ほんとに何気ないことですけど、「心を開いてくれた」って思う瞬間が楽しいんです。

――僅か1年なのに凄いですね。セクシー女優時代の経験が生きている部分もありますか?

希崎 ありますね。カウンセリングのコミュニケーションは、セクシー女優や恵比寿マスカッツのイベントで身に付いたことだと思っているんです。イベントにはいろいろな年代の方が来るし、シャイな人や積極的な人など、多様な人が来てくれたので、どうしたら喜んでもらえるかを考えながらやっていました。そのときに培ったものが、今、生きていると思います。

働くモチベーションは、自分を求めてもらえることと、達成感

――週2日の休みの日はどんな風に過ごしていますか?

希崎 前職のときは1カ月連続で休んで旅行に行くことができたので、休みにありがたみがなかったんです。でも、今の仕事になって、週に2日しかないから休みがめちゃくちゃ貴重だって気付きました。

だから今は、少ない休みをどれだけ有意義に過ごすかを考えて、たとえば平日を快適に過ごせるようにご飯の作り置きをしたりしています。朝もいつも通りの時間に起きて、窓を開けて、溜まった洗濯をして、時間ができたらカフェに行って調べ物をしたり。

あとは、今の業界について調べるようになって、他のクリニックに偵察に行ったりもします(笑)

――それは上司から言われたわけではなく、自主的にお客様として行くんですか?

希崎 そうです。今の仕事をはじめてから「クロージングスキル(契約を結ぶ最終段階のアプローチの技術)を上げたい」と思うようになって、評判の良いところに行ってみたり、YouTubeや営業の本を見たりして、楽しく学んでいます。

――将来、独立することも想定して?

希崎 独立はまだ全く考えてないですね。「今の仕事をもっと快適に楽しくしたい」からやっています。自分ができないからやりづらいだけで、できるようになったら絶対にもっと楽しくなるはずですから。

――希崎さんにとって、今、一番の「働くモチベーション」は何ですか?

希崎 働くモチベーションは、「自分を求めてくださる人がいること」と「達成感」ですね。帰り道に泣きたくなるぐらい忙しいときでも、大変な時期が終わった後に結果が出ると、頑張って良かったと思うし、凄く楽しいです。

セクシー女優も、今の仕事も、華やかなところって本当に一面だけです。 “華やかな一瞬”のために“地味なこと”を重ねなきゃいけないけど、その過程を楽しめるようになりました

こういうふうに気が付くことができたのはセクシー女優をやっていたからだと思うんです。10代のときから会社勤めをしていたら、狭い会社の中だけの考え方になっていたかもしれない。だから前職をやっていてよかったなと思います。

セクシー女優時代の看板よりも、大きな看板を掲げたい

――今後の夢や目標があれば、教えてください。

希崎 今の仕事は楽しくて、できる限りやりたいと思ってるんですけど、いざ社会に出てみると、やりたいことがたくさんあるなと気付きました。だから、違う世界をまた見たくなっちゃうかもしれない。それは、やりたいことがないよりは幸せなのかなと思っていて。

だから私は、今後も、なるべく「チャンスがあったら挑戦する自分」でいたいですね。どうしても年齢を考えちゃうことはあって、もっと若かったらなとか思っちゃうときありますけどね。

――希崎さんは年齢ごとの目標は立てられているんですか?

希崎 年齢ごとの目標はありません。今後の目標は、仕事ができる人になって、キリッとした理想の女性になって、セクシー女優をやっていたことを驚かれる女性になることですね。過去を隠すつもりは全くないから、後でまわりの人がそれを知ったときに「え? そうだったんだ!」と驚かれるぐらいの仕事ぶりができる人になりたいです。


――セクシー女優時代の「希崎ジェシカ」の看板よりも、もっと大きい看板を掲げられるように、ということですね。

希崎 そうなったら面白いじゃないですか。でも、そうなるためにはちゃんと仕事ができる人にならないといけないし、前職とのギャップは大きくなりませんから。

マイナスイメージがあるので承知しています。それでも少しずつでも変えたいという思いは現役時代も今もあって、自分自身が出来ることをやっているだけです。

――既に今の職場では印象が変わってるんじゃないですか?

希崎 最近、先輩に聞いたんですけど、最初は私を「スタッフの1人としてカウントしていいのか」と言われていたみたいです(笑)。確かに私もそう思いますもん。元セクシー女優で、高卒で、「朝、遅刻しないで来るかな?」って。

でも、今はそれを話せるぐらいの仲になっているということですよね。そのままの印象だったら、この話自体をしてくれないはず。今も愛嬌で乗りきっているところはあるんですけど、女性は愛嬌も大事だと思っています。学歴はないけど、何とか頑張ってます、ほんとに


――ありがとうございました。これで最後の質問です。現在、セクシー女優の方をはじめ、セカンドキャリアで悩んでいる方にアドバイスをするとしたら、どんなアドバイスをされますか?

希崎 セクシー女優だったことを隠して働いている方は世の中にいっぱいいるんだろうなと思います。でも、私は、長くやればやったほど隠さなくていい、自分のやってきたことに誇りを持っていいと思っているんです。

それを受け入れてくれる人たちと一緒に働いたほうがいいと思うし、やりたくないことはやらないでほしいとも思います。あとは、やりたいと思ったら、やってみたほうがいいんじゃないかな。悩んでいて時間が過ぎちゃうともったいないから。やってみて駄目だったら、また戻ればいいじゃんと思っています!

セクシー女優時代の「希崎ジェシカ」の看板は、強烈な光を放ち、その存在はあまりに大きい。それでも、“過去の自分”を超える日はきっと来る――インタビューで放たれる言葉を聞いた、その場にいた人間全員が、そう確信したはずだ。いつか、別の看板を掲げた希崎さんに、改めて話を聞いてみたい。