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求めてくれるなら、誰でもよかった - Short Story –

SERIES -fempassCinema

作・湊いずみ

彼氏とセックスレス。

心が擦り減るばかりだから、私から求めることはやめた。

シャンプーを変えてみたり、
パジャマをセクシーなものにしてみたり、
休みの家の日でも化粧をしたり、
なるべくだらしない姿を見せないように気を付けて、
たまには一緒にお風呂に入ろうと誘ってみたり、
あの手この手を尽くしても、

もう、彼は昔みたいに私を求めることはない。

付き合いたての頃は、会うたびに何度でも求められた。
何度だって愛の言葉を囁いてくれた。

寝不足のまま会社に行って、微かに自分の身体から彼の匂いを感じて、彼のことを思い出した。

2人で旅行に行って、夕食前と就寝前で1回ずつ。
翌朝起きてからも始まって、朝食が食べられなかったこともあった。

ぼんやりした頭で、彼の腕の中に抱かれて、指を絡めて、頬を撫でられて、髪に触れられて、目からあふれる愛情を伝えてくれた彼は、もう私の目の前にはいない。

仕事から帰ってきても「ただいま」より先にため息まじりに「疲れた」と言う。

旅行に行ってもお酒を飲んで私に触れもせずにいびきをかく。

それでも期待して、早く帰れた日はご飯を作って、早めにお風呂に入ってスクラブで肌をつるつるにして、一緒にベッドに入っても、まるで「これで勘弁して」と制するような軽いキスだけして眠る。

優しくて温かくて気を使ってくれて私を求めてくれる彼が大好きだったのに、
だんだんと心の距離が遠くなっていくような感覚がある。

同じベッドで寝ているのに、一番遠い存在のように感じる。

一番近いのに、一番遠い。

求めてほしいと願うことってそんなにむずかしいことなのかな。
わたしって、相手を困らせてしまうほどに性欲が強いのかな。
自分の女としての価値は日に日に減っていくのに、
前より倍速で進んでいるような気持ちになる。

ただ抱かれないだけなのに、まるでわたしのすべてを否定されているような気分になる。

今の彼と対称な会社の先輩が輝いて見える。

上司からも部下からも信頼が厚くて、いつもスマートに企画を通して、取引先からも気に入られていて、非の打ち所がない。

どこか昔の彼を重ねてしまっているのかもしれないけど。

あんな人に、いや、あんな人が、わたしを求めてくれたなら、この満たされない気持ちもどこか報われるんじゃないかな、なんて。

淡いよりも薄く、期待するなんておこがましいような、遠い存在。

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