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夜を浴びてこの時間へ恋をした【このままがいいの #01】- Short Story –

この関係がいいの
この関係だからいいの

こんなわたしのままでもいいの
こんなわたしだからいいの

この時間がいいの
この時間だからいいの

澄んだ夜の空気を吸い込むだけでいい。
ただこのまま、この一瞬を、生きているだけでいい。
そんな、“わたし”の話。

作・湊いずみ
撮影・manimanium
ヘアメイク・MUKU
企画/構成・fempass編集部

こんな夜はいつものことなのに
今日のわたしは1人で夜を越すことに
耐えられなかった

浅い呼吸を繰り返して空気の薄くなった寝室から
酸素を求めるように抜け出す

あれもこれも無理やりちぎったのは自分なのに
あなたはどうしてるのかなと薄ぼんやりとした頭の中で思い浮かべてしまう

こんな夜はいつものこと
今日もわたしは1人で夜を越すしかない

何が食べたい何がしたい何が欲しい
そんな欲求が失せた中で
一つだけ浮かんだ、望み。

「会いたい」

と送った
その気持ちを堰き止める隙もなく指が動いていた

人と会うことも話すことも連絡することも億劫だったはずなのに
会ったところでどうすることもできないのに
ボロボロの姿を見られるのなんて絶対に嫌なのに
でも今すぐ会いたかった

私が全てを綴じたとき
心の底から自分のことを諦めて絶望していた私に

「それでも会いたくなったら言って」

そう伝えてくれたことがうれしくて

その言葉を1人の夜に抱きしめ続けていた

そしてこの夜に
抱きしめていたものを
言葉から身体に替えた

「会いたい」と私が言った
30分後にはもう目の前にいて

何かが変わった気でいたけど
何も変わっていなくて

今にでも抱きつきたいと思っていた私の心を見透かすように
「一度抱きしめさせて」
と聞き馴染みのある声とともに
両腕を広げてくれた

川から何かが跳ねる音がした

横に流れる川の水のように
受け入れられるまま
私のために広げられた空間に身を委ねる

ライダースのひんやりした感覚が頬にあたって
外の寒さを防ぐために厚着して火照った身体を少し現実に引き戻す

なのに


包み込まれた身体から放たれる甘ったるい香りがまた夢の世界へ誘っていく

現実なのに夢みたいで
夢みたいな現実で
抱かれた肩の隙間から対岸の街灯が水面に揺れるのが見える
一面に星空が転写されたみたいに

これが夢ならいいのに、と夢に夢を見た

生存を確認するように固く抱き寄せた私の身体を
厚着をしてても伝わるほどに強く、強く、確かめられていく
その工程をやめてほしくなくて
いつまでも私がここに存在していることをその腕の中で証明していてほしくて
離れられなくなっていた

長い時間を一緒に過ごしてきた
私にとってはすごく長い
全部知ってるとは言わないけど
だいたいのことは知っていると思ってた

けれど私は何も知らなくて

私が腕を回す時に身体に厚みがあること
深く息をするとき声が漏れ出ること
何度も何度も強く私を抱きしめてくれること
寒空の下に長い時間いても離れないでいてくれること
そっと私の唇に触れた指が心地よかったこと
素直に言葉を伝えてくれること
愛を全身から発信してくれること
私のことが大好きなこと

知らないことを知るように
私は私を知らせるように
身体中にこの瞬間を浴びていた
だから
言葉の裏とか相手の気持ちとか
いつも考えすぎて喉から出なかった言葉たちを
ただ素直に放していくことができた

これまで身体を重ねることに抵抗もなく
見境ないと言われるくらいにはいろんな男にすぐに抱かれてきた
そこに愛なんてなくてよくて
ただ求められている事実だけが欲しくて
抱かれている瞬間に目の前の人間にとって1番であれば
それでよかった

身体が快感で震えて
嫌なことも忘れることができるから
私の中へどんなグロテスクな感情でもいいから
ただ注ぎ込んでくれればよかった

イイな、と思ったらキスをして
やめたい、と思わなければ雪崩れ込んで
それでおわりでよかった
そういう関係性の築き方しかしてこなかった

だから
性欲由来じゃない愛
性欲由来じゃない愛おしさ
を浴びて実感したときに
思わず笑ってしまった

そしてまた飾らない言葉が流れ出て
「ねえ、あなたって私のこと本当に好きなんだね」

ただ全身から全身へ伝わってきたことをそのまま言った

そんなわたしへ
「そうだよ。大好きだよ」と返してくる

あぁ、これでいいんだ、これがよかったんだ
好きな人には好きって言って、幸せだったら幸せって言っていいんだよね

でもこれだけ言えなかった

帰りたくなかった。

時間が進んで陽が上っていくほど
太陽が帰りを促す大きな声になっていく

子供の頃は日が落ちたら帰らなきゃいけなかったのに
ずっと夜にならなければ帰らなくていいのに
と思っていた

でもいつのまにか大人になって
陽がのぼるのが帰る合図に変わった

明るくなればなるほど眩しくて苦しくて疎ましくて
嫌なことも不安なことも
月を隠す雲で誤魔化して
早く暗闇で私を包み込んで安心させて
と願うようになった

もうなにも隠してくれないくらい昇った残酷な太陽が
ボロボロの姿で飛び出してきたという現実を引き摺り出して
あまりにも青くて澄んでいたこの数時間の夢から醒めさせた

ただ何時間も2人でそこにいただけなのに
幸せで名残惜しくて寂しくて

この時間がずっと続けばいいのにと心の底から願ったけれど
続かないものだからこそ
愛おしくて大切で夢のようで忘れたくないものになるのも知っている

夜を浴びてこの時間へ恋をした

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