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「セクシー女優もただの“人”」先入観を持たずに魂をぶつけ合う。フォトグラファーmanimaniumの流儀

文・阿部 裕華 写真・塩川 雄也

新進気鋭のフォトグラファーとして注目されるmanimanium(マニマニウム)さん。昨年の12月からは人気セクシー女優を被写体とした電子写真集『#Escape』の専属フォトグラファーとしても活動しています。

『#Escape』では、「気取らないけれどセクシー」「リアルなのに幻想的」という二面的な魅力を持ったアーティスティックなヌード写真で新しい世界観を生み出しました。セクシー女優の美谷朱里・八木奈々・小野六花の新たな一面を引き出したことで注目を集めています。

「自分にできる唯一の活動は、写真を撮ることだ」

そう語るmanimaniumさんにとって写真とは?フォトグラファーに至るまでのルーツに迫るとともに、『#Escape』への参加経緯や撮影時の創意工夫、今後の活動についてお話を聞きました。

『#Escape』未公開ショット&manimaniumさん撮り下ろしショットはこちら

「身体が動かなくても写真だけは撮り続けていた」“死”を“生”に転じた写真の存在

――manimaniumさんが写真に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?

manimanium 物心がつく前から、親のカメラを手にしていたらしく、撮るのはずっと好きだったみたいです。写真が好きだとはっきり自覚したのは、中学3年生の春。買ってもらったガラケーで写真を撮るようになった頃ですね。

とはいえ、田舎だったから写真といえば学校の行事とか冠婚葬祭とか…。あとは雑誌でモデルさんが写っているものくらいしか知らなくて(笑)。当時はまだ写真で表現できるとは思っていませんでした。写真なんて誰が撮っても一緒やと思っていたし。

ところが、高校受験の帰り道に立ち寄った本屋で、写真家の川内倫子さんの『うたたね』という写真集をたまたま読んだんですよ。そのとき、「この写真はこの人にしか撮れへん、表現の手段として写真が使えるんや」って衝撃を受けました。

――最近は人を撮影することが多い印象がありますが、当時はどんな写真を撮っていたのでしょうか?

manimanium 学校の周りにある目に留まった日常を写真にしていました。Twitterに写真を投稿するようになってから、「撮ってほしい」とか「撮り合いっこしてほしい」と言ってくださる方が出てき始めて…。そこからポートレートを撮り始めました。遊ぶ感覚で撮っていましたね(笑)。

――フォトグラファーという仕事を意識し始めたのはいつ頃からですか?

manimanium そもそも写真家になりたい、カメラマンになりたいと思ったことはなかったです。ただ、続けていることを辞めるのって悲しいから、何としても写真は続けたい、続けるからには本気でやりたいと思って、大学生のときに写真のバイトを始めました。

ブライダルやストリートスナップを撮ったり、飲食店のメニューを撮ったり…。写真で何がやりたいかもわからなかったし、お金になる/ならないとかも正直どうでもよくて。ただ写真を続けたい一心で、学生でも関われる仕事をしていました。おかげで、写真の技術が身に付きましたね。

――そこまでして写真を続けたいと思った理由は?

manimanium 写真が居場所だったからかな…。21歳のとき、実家の環境が合わず、1年間くらいうつになって動けなくなったことがあって。睡眠も食事もできないし何にも集中できない。大学にも行かずずっと布団の上で過ごしていて、「死んでもいいや」とまで思っていました。

でもそんな状態でも写真だけは撮っていたんですよ(笑)。それで「撮れないとマジで死んじゃう」って気がつきました。

――写真が生きる支えになっていたんですね。

manimanium 唯一、自分が素直でいられる場所でしたね。そこから死ぬ気で毎日好きなことをやろうと。リスクを取ってでもワクワクするほうに行こう!「今日を生きられたらそれでいい」って思えるようになりました。

大学では「就職しないと死ぬぞ!」みたいな空気だったけど、「いや、就職なんかしなくても平気やろ」って。一度死んでしまうような思いをしたので、せっかく生きるなら楽しいほうに行こうと決めましたね(笑)。

――以前、Twitterで「写真で孤独に寄り添いたい」とつぶやいていらしたのが印象的でした。写真が居場所だと気づいた体験がもとになっているのでしょうか?

manimanium そうかもしれません。自分にとっては写真が居場所だったけど、いろんな人を撮らせてもらうなかで、その場限りだとしても、自分以外の人にとっても写真が居場所になることがあるなってことを感じることも増えてきて。

マイナスなこととか、暗い話とか、孤独であることとかをオープンにするのはちょっと気まずいと思っているじゃないですか。でも、それってみんなが持っているものだから否定しなくてもいいし、その感情や思考を表に出さないと、世界にとって「なかったこと」になっちゃう。そういう思いが隠れてしまうのは嫌だから、写真を通じて寄り添いたいなって思っています。

「Escape」してもらうために。作品はあえて見ず、単に“人”として向き合う

――電子写真集『#Escape』の専属カメラマンになられたきっかけは?

manimanium お金が必要で、誰でも撮っていたことがあったんですよ。Twitterで「撮影時間は1時間。5,000円で100カット撮ってその日に納品します」とツイートしたらバズっちゃって。それが広まりに広まって、セクシー女優さんから依頼がきて、その写真を見てくださった『#Escape』のPR担当の方から連絡をいただいたんです。

――manimaniumさんに白羽の矢が立った理由は聞かれましたか?

manimanium 今までのセクシー女優さんの印象とは違う写真集をつくりたいということで、私にお話がいただけたみたいです。セクシー女優さんのスチール写真って、に明るめのライティングでキメキメのポーズがほとんどじゃないですか。暗めの室内で自由な表現をしたものってあまりなくてまた、セクシー女優さんのファンは男性が多いですよね。

写真集のタイトルの「Escape」には「今いる場所から新しい場所へと飛び出す」という意味が込められていて、性別を問わず、見てくださった人が「いい」と思える新しい写真集を作りたいと。「女の子も見られて、でもちゃんとヌードがあってエロい写真集を」と依頼を受けました。ありがたいですね。

――manimaniumさんはこれまでセクシー女優さんに対してどのような印象をお持ちでしたか?

manimanium 遠いところにいる人やなと思っていました。実際に会ってみるまで、特別な感情はなかったですね。「きっとこういう人やろ」って想像もしないし、先入観もなかった。だって会うまでわからへんし。良くも悪くも肩書は気にしない性格で、どんな相手でも単に“人”として接したいと思っています。

実際、会ってみたら、やっぱりただの”人”だった(笑)人を人としてしか扱えない私の性分のせいなのですが。みんな普通にかわいくて素敵です。

――撮影前にセクシー女優さんについて調べたり、どんな感じで撮影するかを考えたりは?

manimanium しないです。女優さんの名前だけは覚えて行きますけど、作品はあえて見ないですね。毎回違うラブホテルで撮影しているのですが、事前にロケハンもしない。

年間500人撮影しているからこそ生まれる「写真のなかなら許される」アイデア

――撮影時に写真の方向性などを意識していることはありますか?

manimanium 『#Escape』においてひとつ意識しているとしたら「強さ」ですね。かわいらしさというよりもカッコよさを表現できたらいいなと思っています。それ以外は本当にあまり考えていません(笑)。

――撮影される際にポージングや表情を指示されることもあまりない?

manimanium 撮影に集中していくと記憶がなくなるので、よく覚えていないんですけど、そこに被写体がいてくれたらいい、くらいな感じで撮影する場所を提案することはありますね。たとえば、あかりん(美谷朱里さん)がお風呂でお寿司を食べている写真は、「お風呂でお寿司を食べてたらかわいくない?」と私が提案しました。

普段だとできない、意味がわからないことでも、写真のなかなら許されるじゃないですか。それがすごく楽しいことだと思っていて。

年間500人くらいの人を撮影しているから、本当にいろんな人に会うんですよ。なかには、追い詰められて奇抜なことをする人もいて。何かを表現したいと思ってとる行動って面白いし、とてもリアル。そういう感覚が染みついているから、たとえば「お風呂に布団を敷いて寝てもらってもいいですか?」「クローゼットに入ってもらってもいいですか?」とか、突拍子もない提案をしちゃうんです。

実際、突拍子もないことをしている写真のほうがかわいいと思うし、結果として評判が良かったりもするので。

――第一弾の美谷さんと第二弾の八木さんの写真集には共通して、花や食べ物が小道具として使われているのが印象的でした。

manimanium 命が感じられるものが好きなんですよね。花はもちろん、食べ物も人の身体を作っているものだから命を感じます。何より、食べている人ってかわいいし、エロいですよね。

『#Escape』の撮影現場は女子会のよう「楽しいと思える時間を生きたい」

――『#Escape』の撮影の雰囲気はどんな感じですか?

manimanium あかりん(美谷朱里さん)の撮影現場は女子会のようでしたね(笑)。撮影メンバーのほとんどが女性で「かわいい! こういうのどう?」と一人ひとりが思い思いにアイデアを提案していました。パーティーでもしているような感じでしたよ。

撮影は絶対に楽しい時間にしたくて。単純に「いい」と思える時間を生きたいし、結果としてそのほうがいいものができる。その一心で、楽しむ努力をしています。

――撮影中にテンションが上がる瞬間はありますか?

manimanium 撮影しているとき、すでにテンション上がっているからなぁ…。でも、撮影している相手がゾーンに入ったときは上がりますね! グッと集中して静かな時間が流れるタイミングがあって。そういうときは「これきた!」と思います。

加工が当たり前の時代だからこそ、「加工しない美しさ」を表現していく

――『#Escape』で女優さんを撮影されてきて、どのような部分に女性の魅力を感じられますか?

manimanium 生きているだけで、きれい。そこに尽きますね。女性だからどうとかではなく、花も野菜も虫も女性も、私にとっては全部一緒なんです。命が感じられることに魅力を感じます。命を意識していないと死にかけてしまうので(笑)人よりも過剰に意識しているかもしれません。

ただ、撮影していて魂が削られていくように感じますね。写真は魂のぶつかり合いなので。撮り過ぎると心身ともに疲れてへにゃへにゃになる(笑)。だから、インプットとアウトプットのバランスは大事だと思います。

――普段からどんなインプットを心がけていますか?

manimanium 音楽はずっと聴いています。あと、人と会っているかな。一緒に過ごしていて楽しい人たちに誘われるまま付いていくだけですが、それが一番なのかも。

自分でもよくわかっていないですね。言語化できないことがいっぱいある。でもそれでいいとも思っています。面白くしようとするともつまらなくなるし、意識してやってもうまくいかないことが多いので、日頃勉強したり本読んだりしてもそれを思い出して何かやろうとも思わないですね。

――そんなmanimaniumさんが今、一番撮りたいと思う写真は?

manimanium 来月から「加工しないヌード」をいっぱい撮ろうと決めています。最近は写真を加工することが前提と考えらえることが多く、「加工された写真が本物で生身の自分は美しくない」と考えて悩める若者たちがたくさんいるんです。加工することのよさはもちろんありますが、本来の美しさを写真で切り取りたいなと。

――以前も靴擦れや痣のお写真を撮られていましたよね。

manimanium 「birth」という企画ですね。次は「命の標本」という名前で個展をしたくて。性別を問わず、ヌードで胎児みたいなポーズになってもらって、俯瞰でたくさん撮影しようと考えています。

――楽しみにしています!最後に、今後の展望を教えてください。

manimanium 自分にとって写真は自分の居場所であり、素直でいられる場所。だから絶対に守っていきたいですね。写真に対してだけは、ずっと素直でいたいです。

今日を大事に、今日を楽しく、今日を特別なものとして過ごすことが大事だと思っています。