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大人が引きずる映画『花束みたいな恋をした』ねっちょりレビュー#1

SERIES -ねっちょり映画レビュー

「fempass」をご覧のあなたのおこもり需要に合うことを願いつつ、おすすめ映画を独断と偏見で、ゆるっと紹介していくコーナーです。

ねっちょりじめじめしたタイプの愛の星・うお座ガール(ぺちこ)が、ねっちょりじとじと読み解いたレビューですので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。

文・ぺちこ/イラスト・土屋みよ

ぺちこ プロフィール

うお座の星の下に生まれた弩級のロマンチスト。“運命”とは、一本の時間軸上にあると考える淑女。パラレルワールドモノは苦手。
最近気になるワードは幕末、フランス革命、巨人戦。特技は初対面の人との会話からアンチ巨人度を炙り出すこと。

記念すべき第1回はこちら!

『花束みたいな恋をした』
監督:土井裕泰
脚本:坂元裕二
主演:有村架純、菅田将暉
公開日:2021年1月29日 124分

<あらすじ>
2015年冬。何か特別な出来事もなく、代り映えのない、それぞれの日常を過ごしていた大学生の八谷絹(有村架純)と、山音麦(菅田将暉)。
終電を逃した明大駅前で偶然に出会い、必然的に恋に落ちたその日から別れまでの5年間を描いた、花束のような恋の物語。

無常であることは何千年も変わらない、この世の中

諸行無常、とはよく言ったものだ。日本三大随筆『徒然草』にはこんな一段がある。

“風も吹きあへずうつろふ 人の心の花に 馴れにし年月を思へば あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから 我が世の外になりゆくならひこそ 亡き人の別れよりもまさりてかなしきものなれ”

現代語に訳すと「色褪せて散りゆく花よりもうつろいやすい、人の恋心。愛し合っていた頃に交わした言葉は忘れられない。けれど時が経てばいつの間にか別世界の人になり、記憶から消えていく。それが恋愛の常というものだろうが、死に別れよりも悲しいものだ」

もう何千年も変わることなく、特に色恋沙汰において、一生この世は「無常」なのだ。咲き誇った花が枯れていくように。

絹ちゃんと麦くんに重ねてしまう過去の恋愛が、多くの大人たちにはあったのではないだろうか。どこかで何かが違っていたら、永遠になっていたかもしれない恋が。

だからこそ、本作を鑑賞した大人たちの阿鼻叫喚がSNSに溢れていたのだろう(まじで現役カップルで鑑賞しにきた人たちの今後が心配)。

人は変わっていくのが当たり前だから

ふたりの男女の出会いから別れまでを時系列で追わされる2時間は、中盤いささか冗長に感じるところもあったが、これがまたリアルな恋愛を思わせる。倦怠期のアレだ。

運命かもしれない、そんな風に始まった恋も、5年もあれば変わってしまう。『エヴァンゲリオン』の加持くんだって言ってたな。「生きるということは変わるってことだ」って。

人気俳優を起用した日本の恋愛映画はどれも凡庸で、ティーンエイジャーが観るものだと少し斜に構えていたが、印象的で美しいキャッチーなタイトルと、主演ふたりの爽やかで愛らしい笑顔になんとなく惹かれ、うっかり観に行ってしまったが最後。

以来、ノスタルジーに浸って枕を濡らす日々を送っている。いい意味で、予想外のダメージを食らっちゃったのです。

冒頭にも申したように、水属性でジメっとした愛の星に生まれ落ちた私は、だいぶ湿度の高いメンタルを持ち合わせているため、鑑賞後数週間はめっちゃ思うところがあった。インスタのストーリー真っ黒にして匂わせ投稿したいくらい思うところがあった。病んだ。

何といっても、独特で詩的で、胸をえぐる名セリフの数々。

脚本は言わずと知れた、90年代の『東京ラブストーリー』から始まり、近年でも『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』等、記憶に残る言葉たちを生み出し続ける天才、坂元裕二である。

“好きかどうかが 会ってないときに考えている時間の長さで決まるなら、間違いなくそうで”
“まだ上書きしないで まだ昨日の夜の余韻の中にいたいんだよ”

くぅ~!!!!! さすがである。好意を自覚したときのあの歯がゆく瑞々しい感覚。

“女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見る度に、一生その子のことを思い出しちゃうんだって”

くぅ~~~!!! 絹ちゃん、さては川端康成の『花』を読んでいるな! ええ、花は毎年必ず咲くのです。忘れられない女になるための必須の小ワザです。

私なんて元カレに「あの頃まだ売れてなかったけど、野性爆弾見るたびに加奈のこと思い出すよ」くらいしか言われたことない。え?辛っ。違くない?そんなパブロフいらない。

恋は、いつかは終わってしまうもの

そんな話はさておき。どちらかというと絹ちゃんはリアリストで、麦くんがロマンチストなのだろう。

作中でも随所に“永遠”を思わせる麦くんに対して、明言を避ける絹ちゃんのやりとりが見られた。

どちらの立場の経験もあり、どちらの気持ちも分かってしまい、どうしても胸が苦しくなってしまった。

恋は、往々にして、いつか終わってしまうものだ。

運命だと思いたかった、神様から授けられた花束のような出会いも恋も、どうしても色褪せてしまうものなのかしら。受け取ったその瞬間が一番美しく完成されている花束のように。

お互いの全てを愛おしく思っていたはずなのに、人の心は、花の色のように移ろいゆくものだから。

初雪が降った日
少し早い春の香りがした日
地震があったとき
今夜はストロベリームーンだと知ったとき
共通の友人の面白い話を聞いたとき

今でもふと思い出し、LINEを開きかけてしまう過去の恋人が、いないとは言い切れない。

「楽しかったことだけを思い出にして、大事にしまっておくから」

運命だと思いたかった、特別だと思っていた、そんなありふれた恋愛をした全ての大人たちに、鑑賞していただきたい。

まあこんなん言うてますけど、あなた方のことなど全然上書き保存ですわ!! ええ!! あばよ!!!

言葉にできないこの衝撃『バーフバリ』ねっちょりレビュー#2

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