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追えば追うほど逃げていく『窮鼠はチーズの夢を見る』ねっちょりレビュー#5

SERIES -ねっちょり映画レビュー

「fempass」をご覧のあなたのおこもり需要に合うことを願いつつ、おすすめ映画を独断と偏見で、ゆるっと紹介していくコーナーです。

ねっちょりじめじめしたタイプの愛の星・うお座ガール(ぺちこ)が、ねっちょりじとじと読み解いたレビューですので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。

文・ぺちこ/イラスト・土屋みよ

ぺちこ プロフィール

うお座の星の下に生まれた弩級のロマンチスト。“運命”とは、一本の時間軸上にあると考える淑女。つまりパラレルワールドモノは苦手。ワクチン副反応があまりにも辛くて2日も会社を休んでしまいましたがその2日でワンピースの無料公開400話を読み終えてしまったことは会社には内緒にしてください。

第5回の映画はこちら。

窮鼠はチーズの夢を見る
原作:水城せとな
監督:行定勲
脚本:堀泉杏
主演:大倉忠義、成田凌
公開日:2020年 130分

<あらすじ>
受け身の恋愛ばかりを繰り返してきた、大伴恭一(大倉忠義)。
優柔不断な性格で、浮気、不倫ばかりしてきた恭一の前に、ある日、妻から派遣された浮気調査員が現れる。卒業以来会っていなかった、大学の後輩・今ヶ瀬渉(成田凌)だった。
浮気現場を突き止められたことの口止めの代わりに肉体的な関係を求める今ヶ瀬。
恭一は拒否するが、なし崩し的に始まる二人の関係。
ひたすらにまっすぐで愛らしくも見える今ヶ瀬に、恭一も次第に心を開いていき半同棲のような関係になる。しかし、恭一の昔の恋人・夏生が現れ、ふたりの関係が変わり始めていく──

はいめっちゃ良かったですけど~~!!?

「BLではない、普遍的な恋愛」だなんだという触れ込みを見ていたため、公開時には意識的に避けていたところがあった。
というのも正直、同性愛をファンタジーのように扱い、“萌え”として消費してしまう文化は少し苦手でござる。
これを普遍的な恋愛と、マジョリティの立場から言ってしまうのはどこか上からという気がしてしまうのでござる。
「BL」という特別な枠組みに入れようとしない世の中になることこそが現代の課題なのかもしれない。とかなんとか思いつつ。

といっても「普遍的な恋愛」という点には激しく同意なぺちこちゃん。

自分から発する熱い情熱はないものの、誰にでも良い顔をして、誰からもちやほやされていたくて、誰かに必要とされるとすぐに抱いてしまう“流され侍”、こと恭一。いやもう恭一ほんとクソ野郎。恥を知れ。
元カノには「恭一は優しかったけど、情熱みたいなものは見せてくれなかったよね」なんて言われる始末。

一方、そんなクソ男を
「貴方みたいな人間、大嫌いなんですよ!」
「でも、心底惚れるって全てにおいてその人だけが例外になっちゃうってことなんですね。」
とかなんとか言っちゃって
何度離れてみようと試みるも結局戻っちゃって都合の良い関係になっちゃっていろんな形跡から他の女の匂い感じては病んで→爆発して→泣いて→戻ってきちゃっての無限ループかましまくる、恭一なしでは生きていられない今ヶ瀬。

いわゆる自己犠牲的メンヘラが遊び人とくっついちゃって無限メンヘラループを繰り返し心身共にすり減っていく、め~ちゃくちゃよく見る世知辛い恋愛のひとつなのでござる。

でもさ~! 簡単にメンヘラなんて言わないでほしい!
ぺちちゃん、人のこと軽率にメンヘラ扱いするひと、だめです!
特に、「俺、メンヘラホイホイなんだよね~」とかドヤ顔して言っちゃう人間、だめです!
メンヘラ発動させてるの、おまえです!

ぺちちゃんの心理学講座、いっきま~す!

『窮鼠はチーズの夢を見る』から学ぶ、愛と依存の関係

ぺちちゃんが、中学からの必須科目にすべきだと思っている愛着問題。
心理学における「愛着」とは、イギリスの心理学者ボウルビィが提唱した「子どもが特定の他者に対して持つ情愛的な絆」のことを言うでござる。

幼少期に形成されたそれぞれの愛着パターンは、その後の人格形成の土台となり、ひいてはパートナーとの恋愛や人間関係の傾向を決定づける、大きな要因として働く。生まれてから身に付き、生涯を通して大きく関わるため「第二の遺伝子」と例えられることもある。
特に恋愛関係を構築する上で、絶!大!な影響を与えるわけ。

さて、そんな愛着スタイルには「安定型」と「不安定型」があります。
「不安定型」は更に「不安型」と「回避型」、「恐れー回避型」に分けられるよ。

我思うに、恭一と今ヶ瀬の関係は「不安型」と「回避型」が、くっついてしまった、いっちばんしんどいやつだと思う。このパターン、一番泥沼になると思う。

不安型の人は、心理的な距離は近く、一人に対しての依存度が高い。
今ヶ瀬のように相手に強く執着し、離れている間不安になって携帯見たりしちゃうタイプ。
メンヘラと呼ばれがちなタイプ。だってメンヘラにさせる人のこと好きになっちゃうもん、ぷん。

それに対して、恭一みたいな回避型や恐れ回避型の人は
不特定多数に手出してみたり、本命を一人に絞ることを恐れる。本心を全て相手に委ねると失ったときが怖いから。心理的な距離は遠い。
一瞬は本命ができるから恋人ができたり結婚したりもするけれど、取り繕ったペルソナはそう長く続かない。

要するに追えば追うほど逃げていく関係。
不安型の人は、不安になりドキドキする気持ちを「恋だ」と感じやすい。
そこに費やした労力をどうしても愛情の量だと思い“特別な恋愛”だったと勘違いしてしまう傾向がある。……いや、特別だったんだけどね!?! い、いや、私のことじゃないんだけどね?!?!(汗)

この、どう見たってうまくいきっこない不安型と回避型の恋愛だけど、どうしてかこの組み合わせは恋愛関係になりやすい。

回避型に不安にさせられる不安型はそれを運命の恋だと解釈するし
特定の人間と安定した恋愛を継続できない回避型は、恋愛市場にカムバックするスパンも短く、不安型と出会う確率もあがるわけだ。
安定型は一つの恋愛を継続できるので、そうそう恋愛市場には戻ってこないもんね。

そしてこれらの愛着に歪みがあることを「愛着障害」と学問的には呼ぶけれど
障害という単語の響きでそう悲観的にはならないでおくれよ。
己の愛着スタイルを理解し、向き合うことで道は開けるんだからさ。

依存することが必ずしも悪いわけではなく、「共依存」と「相互依存」の大きな違いを理解して、パートナーと良好な関係を築いていけるといいわよね。
共依存:妄信した相手への幻想に溺れ、自分のことも相手のことも見失った状態
相互依存:自立した人間同士がお互いの違いを理解し、尊重しあいながら補いあっている状態

理解と尊重、恋人関係に限らずすべての人間関係において大切な心がけよね~。

と、個人的にはかなり深い愛着問題を感じるキャラクターたちだが
掴みどころがなく「無」を感じさせる、もはや幻想的ですらある大倉くんの佇まいと
じっとりとした強めのメンヘラ男子を演じきった成田くんの演技力。
もうこの二人じゃなきゃ成立しなかっただろうと言える、完成された空間はもはやアートのようだったでござる。
しかしドエロイ。家族で見ちゃダメです。(見ました)(地獄)(セックスリアルすぎ)(泣いた)
ちなみに、最近は新しい出会いもなく、好きな人がいるわけでもなく、新しい恋の予感もなく
元カレへの未練も完全に消え失せ、大地は割れ、草木は枯れ果て、鳥たちは唄うことをやめた荒み切った世界で、完全に人生の“凪”に突入してしまったアラサーぺちこちゃん。

喜びも憎しみも幸せも不幸もない 無 の状況を打破すべく、
マッチングアプリのパトロールへと向かったある日、こんなメッセージが届きました。

新規いいね、1件。

「暇つぶしに始めました♪

仕事:広告業
ステータス:別居中
将来:子どもは絶対にいらない」

ばかやろう貴様せめて離婚成立させてからおととい来やがれよなこの世はクソ

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