黒のショーツを赤に変え、白いドレスやキャミソールを試す姿に、ミステリアスな空気は微塵もない。
やがて可愛らしいティアラを戴いた彼女は、退屈な城の生活に飽きた姫のように、黎明の街へ繰り出した。
世に、天は二物を与えず、という。
しかし神は、宮下玲奈に美貌と知恵の両方を授けた。
彼女が踊る床は壮麗な黒壇と化し、彼女がまどろむ椅子は至福の寝台に変わる。
とりわけ夜は、その可憐な魅力に特段の加護をもたらした。
宵の終わりと共に太陽が昇り、地平の彼方に落ちるまで。
小鳥のおしゃべりを楽しみ、街の景色を眺めながら、二度と思い出せない歌を口ずさむ。
昼の彼女はたおやかで、その笑顔は陽だまりのように温かい。
夜の玲奈と、昼の玲奈。
どちらが本物の宮下玲奈なのかという問いに、答えはないだろう。
公園ではしゃぐ彼女も、路上の白い花を従える彼女も、等しく宮下玲奈なのだから。
そして、再び空に月が昇る。
新たな客人は今宵、なにを思うだろうか。
彼女に巡り会えた幸運に歓喜するか、あるいは彼女以上の美貌は存在しないという現実に恐れ慄くかもしれない。
昼と夜の狭間を歩く賢い女──宮下玲奈が、そっと囁く。
「あなたが知りたい秘密を教えてあげる」
END