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(2/2)蒼い愛【このままがいいの #3】- Short Story –

昔から、冬の夜が好きだった

どこまでいっても澄んでいて
真っ暗なのに降る雪が街灯の光を拾ってやけに眩しくて
雪が世界の音を閉じ込めて積もっていく

降ったばかりの雪を踏み締める音だけが自分の耳の中に入ってきて
白い世界に上書きするように白い息を吐いて
吸い込めば鼻の奥がツンと痛くて涙まで凍って
指先も足先も悴んでまともに動きやしないのに

でも心地よくて

でもなんかあったかくて

流れた涙が冷え切った頬をスピードを落としながら滑っていく感覚
顎に伝う頃にはもう氷柱のように硬化しているけど
自分の”中身”はまだ暖かいんだと相対的に実感できていた

日常の中で自分に向けられる腫れ物みたいな目線に嫌気がさしていた思春期のわたしに
寄り添うでもなく抱きしめるでもなく
ただそこにいてくれたのは
冬の夜だけだった

いくら大声で泣き喚こうが動揺せず
でもわたしの叫びを隠してくれていた

上京してきてもう8年弱

気付けば電車の乗り換えもスムーズにできるようになって
人混みで向こうから歩いてくる人の避け方がわかるようになって
なんとなくここから目的地までの位置関係も把握できるようになって
40分も電車に乗れば隣の県へ行けることも知って
近所付き合いも冬靴も必要ないと知って
駅徒歩10分で悩むようになって
たくさんある繁華街の中から好きな場所を選ぶことができるようになって
色んな酒の味に溺れて空気の薄い街にも慣れて
お金を出せば美味しいものがたくさん食べられて
探さなくても男は湧くようにいて
誰も他人に興味がない、ということを知った

まるで冬に凛と佇む椿のように
まるで夏に照らしてくれる向日葵のように
美しい花を咲かせているあなたは
いつもわたしの進む先を示すように
それでいて同じ歩幅とスピードで歩いてくれていた

地元の冬の夜も
都会の冬の夜も
“冷たい”と言われることが多いけどわたしにとってはどこか居心地がよかった
そんな冬の夜のようなあなたといるのも居心地がよかった

わたしたちは一緒にいるといつも「青」信号で
マイナスを掛け合わせてプラスになる
足りないところを補い合って
リボンを編んだり巻いたりして
丁寧に包んだ言葉を贈りあったりして
いつかぐちゃぐちゃになっても
そうやって青信号になることを知っている

わたしがいなくても幸せで生きていてほしいけど
わたしと一緒に幸せに生きてほしいと
心の底から願って、伝えて、喜んでもらえることを知っている

どちらからともなく言い出す「会お」の一言から30分で遊びに行ったり来たりして
数日だって空いてない隙間を埋めるように夜を忘れて
若くて「青」いわたしたちの話をして
思ったことしか言えないけど思うことがたくさん出てくるね、と朝がやって来るのを惜しく感じるくらい一瞬で通り過ぎる二人の時間をまた糧にして
「ブルー」な気分も共感して共鳴してああだこうだと慰めあって孤独じゃないことを再確認してまた愛が深まる足音を聞いて
お互いを象徴する色もまた「青」で、誕生日に贈りあうものも透き通ったブルーを選んではこれがあなたらしいなと、これを選択するのもわたしらしいなと、深く納得することが多かった

“一緒にいると青信号”は間違いなくわたしたちの合言葉で愛言葉で
恐ろしいくらいなんでもうまくいってしまうことを理解するようになって
もうあなたがいないことなんて考えられないくらい日常になった

寒空の下で涙を溢した夜、離れた何処かであなたも泣いていたことを知った
それがなんだかおかしくて、愛おしくて、自分の後悔も苦しみも吹き飛んで
結局くすくす笑えてしまって
太陽が昇るのを待たずに帰れた日のことを思い出した

2人で選んだお守りを身につけて
あなたに出会うまでのわたしはどうやって生活を送っていたのか思い出せなくなっていて

春がまた、青くて遠い空を呼び寄せる
青い愛が、実りをつける

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