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AIKA&今井夏帆が現代版ギャルに 輪廻転生する彼女たちの今

※2019年12月13日にWebメディア「KAI-YOU.net」にて配信された記事です

女性における日本特異の文化として、時代の流行とも絡みながら平成の30年間に独自の変遷をたどってきた「ギャル」。

振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを、写真とテキストで振り返る。

文:速水健朗 モデル:AIKA、今井夏帆 撮影:宇佐美亮 スタイリスト:細谷文乃 編集:恩田雄多

書き手は『ケータイ小説的。』(2008年)で、浜崎あゆみさんらギャル文化の象徴とケータイ小説との密接な関係に切り込んだライター・速水健朗さん。

モデルは、ギャル女優として活躍するセクシー女優のAIKAさんと今井夏帆さん。ギャル文化をリアルタイムで経験してきた2人が、各年代のJKギャルを演じる。

第3回目は、AIKAさんと今井夏帆さんが2010年代のギャルを表現。全盛期を経たギャルが、その後どのような変遷をたどり現在に至るのか。次なるギャルの10年を展望していく。

今井夏帆が魅せる2000年代ギャル ハードボイルド化した彼女たち

今井夏帆が魅せる2000年代ギャル ハードボイルド化した彼女たち

※2019年12月6日にWebメディア「KAI-YOU.net」にて配信された記事です

女性における日本特異の文化として、時代の流行とも絡みながら平成の30年間に独自の変遷をたどってきた「ギャル」。

振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを、写真とテキストで振り返る。

ギャル全盛期とデフレカルチャー

スクールバックからリュックが主流に。スポーツブランドが人気となっている

ギャル文化が最高潮を迎えたのは、おそらく2010年よりも少し前のこと。ティーン誌『Popteen』が最高の部数を達成したのは、益若つばさと『Men’s egg』モデル(当時)の“梅しゃん”こと梅田直樹との結婚が発表された2008年2月号。部数は41万部以上だった。

“つーちゃん”こと益若は17歳でデビュー。同誌がギャル寄り全開だった頃の最大のカリスマ読者モデルで、結婚は彼女の登場から5年後、22歳のときのこと。ティーン誌なのに結婚するって、ちょっとした驚きがあった。

早熟、早婚、早産、そして離婚も早めと、人生のイベントを誰よりも先に経験し、刹那的に生き急ぐギャルの生き様に『Popteen』は寄り添ったのだ。

実際に益若は、結婚の翌年には出産。その後、子育て、離婚を経た。人が20代から40代にかけてやることを、彼女は短縮形で駆け抜け、さらにギャルママとしてタレントやモデルの活動を続けたのだ。

2008年に発売された益若つばさスタイルブック『つばさイズム』。彼女は引退・出産後もタレントとして注目を集めた/画像はAmazonより

ちなみに2010年頃は、益若に続いて、小森純、鈴木奈々、舟山久美子といった『Popteen』の人気モデルたちが、活躍の場所をテレビなどに広げ、テレビタレントとしてお茶の間にギャル的なものを拡張していった時期。『Popteen』は、女の子タレントの登竜門となっていた。

2006年のライブドアショック、その後2008年のリーマンショックというたて続けのダメージにより日本経済は沈滞ムードに襲われた。そもそも、1990年代末から始まった物価の下落=デフレは、日本の経済基盤に大きな打撃を与え続けてもいた。

2010年代も引き続きデフレ不況の時代だが、ギャルは元気だった。この当時のギャルの信条は節約上手。ギャルのリーダーだった益若は、特にしまむら好きを公言していた。

靴はスニーカー、ソックスの丈は短めがスタンダード

全国に店舗を持つファッションセンターしまむらが、急速に勢いを増したのが2010年頃。ギャルカルチャーはそれまで、SHIBUYA109を中心に、渋谷から同心円状に拡散していく文化だった。しかし2010年代には、全国各地の地方に根付き、むしろ非都市的な存在になっていた(しまむらに都心型店舗は少ない)。

しまむらは値段の安さはもちろん、品数の多さが特徴である。商品は玉石混淆、山のようにある中から、1点か2点でもいいものを探し出すゲーム感覚。同じお金を使っても、センスのあるなしで違いが生じてしまう。

つまり多品種少量生産がしまむらの戦略だった。街角で採取した新しいトレンドを捉え、その特徴を活かした商品をすぐにつくり、素早く店頭に並べる。圧倒的にお金があるほうが有利だったはずのファッション界のルールをしまむらが一変させたのだ。

また、ファッションの低価格化の傾向は、2009年のH&M日本進出を皮切りに流行したファストファッションの潮流ともマッチした。服は安くてもOK。特にブランドには頼らないという風潮がこの時代に完全に定着。モノの価格が下落している中で、それにいち早く適応したのがギャルである。ギャルは日本に生まれた“デフレカルチャー”の代表でもあるのだ。

2010年代初期のギャルの真理に触れた西野カナ

自撮り文化とともに一般化したセルカ棒

2010年代を代表する歌手の1人に西野カナがいる。デビュー当時の西野カナはギャルからの支持率が高かった。大ブレイクした「会いたくて 会いたくて」(2010年)のヒットの前後は、歌詞に携帯電話を絡める割合が高い。

君とのメールも写真も全部消えたのに 思い出は消せないままで」(2009年「君に会いたくなるから」)

でもね、ケータイに君の名前が光るたびに いつだって一人じゃないんだよって教えてくれる」(2009年「Dear.」)

真っ先にメールくれる優しさに もう何度も救われて」(2010年「Best Friend」

社会学者の鈴木謙介は、「会いたい」「せつない」が繰り返される西野カナのような歌詞が、2010年前後に多かったこと(青山テルマにはじまり、初期の加藤ミリヤなど)を受け、これらを「ギャル演歌」と命名した。

西野カナはメディア論的な読みどころにあふれている歌手だ。メモリから消去しても終わらない恋、うっかり彼氏のケータイを見てしまって終わる恋。どれも現代的ならではのせつなさである。そんなあれこれを初期の西野カナソングは教えてくれていた。ケータイで深くつながっているはずの相手との断絶こそが現代の悲劇であると。

2010年代は、ギャル色の強いファッションショーの規模が拡大していった。東京ガールズコレクションは、アパレルブランドが開催するのではなく、消費者目線のリアルクローズをベースとしたショー。ギャル雑誌でおなじみの読者モデルや芸能人たちがランウェイを歩き、その場でオンラインから購入できるシステムが話題を集めた。

そのスタートは2005年だが、年々規模を増し、2010年にはさいたまスーパーアリーナで3万人を動員。以後も会場を変えながら、大会場では3万人を超える規模のショーを年数回ペースで開催している。この東京ガールズコレクションは、経産省が推し進めるクールジャパン政策を担うイベントでもある。ギャルを独自の日本文化として海外へ売り込もうとされたのだ。

韓国で話題になった“指ハート”

日本独自のドメスティックな(演歌とも親和性の高い)存在だったギャルは、2010年代に突如、国際的シンボルとして注目される存在にもなった。

代表的なところでは、「新しいスタイルを生み出す活力を持ち、世界的にもトレンド発信力に優れた、日本のユニークな女性『ギャル』たちを研究し、彼女たちを等身大で理解・活用する」ための部署として、電通ギャルラボを立ち上げている。

閉塞感の漂う日本経済、消費をしない若者たちという社会の中で、ギャルだけが元気でわかりやすい若者像を示していたのだろう。

ギャルカルチャーの転機

パーカーやベストで制服をアレンジ

ギャルが社会・経済の中で注目されると同時に、実際の教室文化の中では、ギャルであれば無条件でイケてるという価値観ではなくなっていた。当時を学生として過ごした世代に話を聞くと、むしろステレオタイプなギャルは“遅れていた”というのが1990年代半ば以降生まれの感覚だという。

時代は変わりつつあった。学校の制服もかつてのように着崩さないほうがおしゃれだった。クラスに少数のギャルはいるが、「単なる治安悪い系」に見えていた。それに変わってクラスの目立つ女の子たちは、ストリート系のファッションやK-POPスターのファッションを取り入れたような子たちだった。

いつしか、ギャルに転機が訪れていたのだろう。

話は少し前にさかのぼる。AKB48の初期においては、前田敦子と大島優子のツートップがグループを牽引する脇で、板野友美は、クラスに1人はいるギャルキャラのポジションで孤軍奮闘を果たした。サマンサタバサ(Samantha Thavasa)のイベントなどで、他のモデルより一回り小さいものの誰よりも存在感を放っていた。

ストリート系のファッションやK-POPスターのファッションは、制服にも取り入れられていた

ただしAKBでの板野は、主流派ではなく異端派。しかし板野は、総選挙でも上位のポジションを保っていた。2010年は4位。2011年、2012年は8位。グループ内にはギャル的なキャラクターが希少ゆえ、世間のギャル票を彼女が独占していたこともあるだろう。

そして、翌2013年にAKBから卒業する。この板野の卒業が、世間にとってのギャル時代の転機でもあったのではないか

歌手としてデビュー前のきゃりーぱみゅぱみゅが登場したのは、ギャル系ではなく、原宿ストリート系の『KERA』『Zipper』『HR』といった雑誌だった。その後、Perfumeを手がけた中田ヤスタカのプロデュースで歌手デビューすると、楽曲は23カ国で配信され(2011年発売「PONPONPON」)、同年末のシングル「つけまつける」になると先行配信が73カ国に増えた。

この頃が、ギャルの転換期だろうか。2014年には、藤田ニコルがローティーン向けの『nicola(ニコラ)』のモデルを卒業し、『Popteen』と契約して話題となった。彼女も『Popteen』専属モデルのギャルながら原宿系も要素も持ち合わせている。2015年頃からギャルの更新が始まってきたのだ。

SNSの台頭とともに写真のポーズも多様化

InstagramやVine、YouTube、TikTokといったSNSが台頭する時代に、雑誌というメディアは10代の気持ちを捉えたものではなくなっていく。女子高生たちのメディア比重も、スマホを介したネットに傾いていった。2014年には1995年から続いた雑誌『egg』(大洋図書)が、同年5月31日発売の7月号で休刊(編注:2018年にWebで復活、2019年には復刊)。当時、ギャル系雑誌の部数はどれも落ちていた。

恋愛リアリティー番組『バチェラー・ジャパン』(2017年)にゆきぽよこと木村有希(2012年から『egg』モデルとして活躍)が出演し、ギャルであることを全面に打ち出したキャラづくりが主に女性からの支持を集めた。

とはいえ、ここでのゆきぽよが貫いたキャラは“古き良きギャル”のようだった。これは90年代、ギャル文化の台頭期におけるヤンキー文化が“古き良きヤンキー”として生き残っていたのと近い現象なのかもしれない。

オタク向けコンテンツにも進出したギャル

アゴラインを細くみせれる“縦ピース”

かつてギャルは、女の子たちには支持されるが、教室の地味な男の子たちからは敬遠される存在だった。だが2010年代には、オタク向けコンテンツにもギャルが多く登場するようになった。

累計発行部数500万部突破のライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は、平凡を愛する高校生の主人公・京介が、ギャルで中学生の妹・桐乃に振り回されるという話である。

妹は、クラスで一番華やかなグループに属するいわゆるギャルだ。ティーン誌で読者モデルをやっているし、髪の毛も「ライトブラウン」で「両耳にピアス」のギャル属性。ただし、めちゃめちゃマニアックなエロゲーのファンであることを周囲には隠している。

それを知ってしまった兄が、妹の知らない側面に触れていくというもの。第1巻の発売が2008年で、2010年以降にドラマCDやアニメ、ゲームなど多メディア展開が進んでいく。

著・伏見つかさ、イラスト・かんざきひろによる『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』/画像はAmazonより

一方『月刊少年エース』で2016年より連載中である植野メグルの『はじめてのギャル』は、“非リア充”のさえない高校生の主人公・ジュンイチが、ミニスカートでルーズソックスの“白ギャル”こと八女ゆかなと付き合うことになるのだが、彼女は実はガードが固く、キスも未経験という設定。

オタク向けコンテンツにもギャルが登場した理由は、ギャルとオタクに大きく二分していた2000年代以降のスクールカーストが反映されるようになったからだろう。強めの女の子に振り回される男子というのは、ラノベに限らずラブコメの必勝パターンではある。その強めの女の子キャラが現代ではギャルと重なったのだ。

ただし、2010年代のスクールカーストにおいては、前述した通りギャルがかつてほど上位のグループではなくなっていた。また、こうした作品を実際のギャルに読ませても、「リアルじゃない」「キスも未経験なギャルなんているのか」といった反応が返ってきた。フィクションで求められるギャル像と現実のギャルとの解離は大きそうだ。

輪廻転生を続けるギャルの現在地

 

2018年に公開された映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』では、1995年当時のコギャルたちが作品世界の中心に置かれ、当時の様子がかなり忠実に再現された。広瀬すず、池田エライザといった女優たちが、映画の公開イベントなどでコギャルコスプレを披露し、インスタなどでその話題が広く拡散された。

衣装やメイクによる再現度も高かったが、なかでも彼女たちを使い捨てカメラ「写ルンです」で撮影した写真が話題を集めていた。粒子の粗さや安いフィルムの色再現の低さは、むしろ今のインスタのフィルターをかけた写真の雰囲気に似ており、リバイバルなのに“新しい”という反響だった。ギャルの輪廻転生を見ているような気がする

これまで3回に分けて、ギャルの30年史を振り返ってきた。ギャル文化の面白さは、常に進化しているようでありながら、同時にリバイバルを繰り返してもいるところだ。現代のギャルは90年代のコギャルとは切り離された別の文化のようであり、2周目、3周目のリバイバル現象にも見える。

例えば、使い捨てカメラやプリクラなどを通じて、当時コミュニケーションの中心となった写真は、現代ではデバイスとメディアがスマホ・SNSに進化したが、写真そのもののコミュニケーションにおける価値は、以前から変わっていないのだ。

閉塞感の漂う日本経済、消費をしない若者たちという社会の中で、ギャルだけが元気でわかりやすい若者像を示していたのだろう

旧来のいかにもなギャル風ファッションは、今では下火なのかと思いきや、一方で、YouTubeで人気を集める「制服の着こなし方」動画などを見ると、昔ながらの着崩しが支持されていたりする。

一時期、制服は着崩さないのが明らかにトレンドだったが、今はどちらも共存しているようだ。これからもこんな調子で、ギャルの時代は、まだまだ続くのだろう。ギャルは転生し続けるが、同時に普遍でもある

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