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(2/3)狂ってる ‐ Short Story –

SERIES -fempassCinema

パパたちとは違うやりとり。

朝起きて通知が来ててもうんざりしない。

それは彼からの連絡だからだ。

ため息のつかない通知が来ることが、わたしにもあるんだと、
なんだか、年相応の女の子になった気がして、うれしいかも、と心が跳ねるような感覚を覚えた。

連絡の内容は淡泊だけど、どうやったっていい人なのかはやりとりの文面からも受け取れて。
意外と共通の趣味があったりして、会話が弾んで。
大学でたまたま顔を合わせることもあって、そんな日はなんだか気分がよかったりして。

聞いてる音楽のジャンルが一緒なこともあって、今度お茶でもしてその話をしようと、約束を立てた。

金銭が発生しないのに、男性と二人きりで会う。
そんなのいつぶりだろうと考えたけど、思い出せない。

パパ活を始めたきっかけは、単純なものだった。

ただ、お金が欲しかった。

わたしの場合は、パパ活アプリは治安が悪くてパパの質も低くて向いていなかったから、
比較的敷居が高くて審査もある交際倶楽部に登録している。

男性側からオファーが来たら、受けるか断るかを判断して倶楽部側へ連絡する。

それ以降は自由交際として、顔合わせ→その後どういう関係性で交際していくかを二人で話して決めるという流れだ。

その際に、お手当の話にも必ずなるのだが、おそらく私は倶楽部内でも、高いランクに振り分けられていて(ランクは女性会員には提示されないからわからないけど)かなり”良質なパパ”からのオファーが多かった。

良質なパパであるほど、お手当はこちらから交渉する必要もなく、想定していたより+2万ほど高く包んでくれる場合や、なんでもない日にプレゼントとしてハイブランドのアクセサリーを贈ってくれたりした。
そのたびにわたしは、おおげさに喜んで見せて、解散は名残惜しさ全開のオーラを出しつつ、でも笑顔で手を振って、すぐに「今日は本当に楽しくて幸せだった!ありがとう!〇〇さん!!♡」と連絡をする。

その一連の流れを、こなしまくっていた。

当時は親からの仕送りはあったものの、一人暮らしで大学行ってアルバイトして…は、自由に使えるお金も時間も少なすぎて、かなり嫌だった。

だから軽い気持ちで、SNSでよく見る「パパ活」をやってみることにした。

それこそアルバイト感覚で、
だから割り切って、わたしの時間を買ってくれたパパには、そのパパが求める交際相手を演じることができたし、我慢したり制限したりせず、好きな時間に好きなものを買えるパパ活というアルバイトに満足していた。

一方で、若い女の子を買っているパパたちは、もちろんその若さを買っているわけで、
19歳のわたしと21歳のわたしじゃ価値も全然変わってくるわけで。

食事のみのオファーが減ってきていたり、
「大人」という言葉をつかってもっとお金のもらえるニンジンをぶらさげてくる男性からのオファーが増えているのを肌に感じて、少しだけ、焦りみたいなものも感じていた。

パパ活で稼げるうちに稼いでおきたいというのは、本音だ。

次いつ切られるんだろうとか、いつ「大人」の交渉を持ち出してくるんだろうとか、そんな心配がない同年代の男の子との、普通のデート。
金銭のやり取りがない、相手に無理に合わせなくていい、ただの、一人の女の子としてのデート。

持っている私服は、ほとんど夜に映えるような身体のラインに沿うようなピタッとしたミニワンピばかりで、これではあまりにも夜の匂いがしすぎだよなと、あたらしく淡い色のセットアップを通販で買った。

 

デート当日。
ついついいつものくせで、集合時間の5分前に待ち合わせ場所に着いた。
と思ったら、彼が先に着いていた。
なんだかそわそわしている感じが伝わってきて、かわいいなと思った。

入ったのは日当たりのいいテラス席のあるカフェ。

最近ハマってるアーティストの話から、インディーズ時代から聞いてたバンドが最近ドラマのタイアップが決まった なんて話とか、大学って意外と息の合う人いないよねって話をして、家族の話まで。なんだか、想像していたよりずっと話しやすくて、
あの飲み会がただ居心地悪い状態だったことを二人で再認識して、
お茶だけで過ごすには時間が足りないような気もしたけど、
彼がこのあとバイト入ってるから、と解散となった。

ビジネスではない本当の意味で、バイバイするのがすこしさみしくて、
「あー、たのしかったな、ひさしぶりにこんなに自分の話したかも!」
と言うと
「僕もたのしかった。バイトがなかったらこの後もどこか行きたかったね。君がよかったら次はご飯行こうよ」
と、とんとん拍子に次の予定まで決まった。

世間で言う、タイミングよく進んでいくって、こういうことを指しているのかなと不思議に思いながら、パパ活の予定で埋められたカレンダーに、彼と会う次の予定を新しい色のタグで入れた。

ちょうどもうすぐ咲き始める、桜色のタグにした。

次のデートまでも、わたしはパパ活を続けた。

そこに罪悪感などなかった。

風俗とか、キャバクラで働いてる子が、彼氏ができたからやめるっていうのはたまに聞くけど、わたしはただご飯とかショッピングを一緒にしてるだけだから、彼との関係と、パパ活は完全に切り離して考えることができた。
パパ活のときのわたしは、「そのパパのためのキャラクターの女の子」であって、わたし自身ではないし。

今日も、太いパパと食事をして、いつも送ってくれる場所で車から降りてハグをする。
家バレしたりするのが怖いからいつも一駅前で降ろしてもらって歩いて帰る。
受け取った封筒の中身をチェックして、満足する。今日もよく働いた。

家について、メイクを落としているとき、彼から連絡がきていることに気付いた。

「次会ったとき、話したいことがある」

ドキッとした。
きっと、次会う時に告白されるんだろうなと、察してしまった。
察せるような内容をわざわざ会う前に送ってきてしまう彼にいとおしさを感じた。

めんどくさいからメイクは適当に落として今日はそのまま寝ちゃえ〜と思っていたけど、なんだかちゃんとスキンケアしたい気分になってお風呂へ向かった。
内側からあふれ出てくる幸福を自分で浴びて、いつもはしないスクラブとかして、数日後のデートへ備えた。

デートの日は、桜が満開だった。

彼が予約してくれたお店は、ちょっとだけいい焼肉屋さんだった。

もっといい焼き肉屋に日頃行っているわたしには、ほんのすこしだけ物足りなさを感じたけど、そんなのどうでもいいくらい、今日も彼との会話は楽しくて、一緒にいる時間が一瞬で、またすぐ帰る時間になってしまった。
お互いに惜しい気持ちが押し寄せているのを感じていた。
駅に向かうまでの道を、ゆっくり歩く私に合わせて、彼もゆっくりと歩いているのを感じながら、沈黙が続く。

彼が息を吸い込んだのを、春の夜風が教えてくれる。

しかし、彼の口から飛び出てきた言葉は、わたしが予想していたのと真逆のものだった。

「あのさ、援交とか、してないよね?」

告白待ちだったわたしに、ありえない質問を繰り出してきた彼に、一瞬クラッとめまいがする。
何も言わない私に、彼は続ける。

「この前、おじさんと腕組んで歩いてるところ見ちゃってさ。」

ああ、わかった。
パパ活してる場面を目撃されて、援交してるんだと誤解しているんだと理解した。

「援交なんてしてないよ。ただのパパ活。」

アルバイトとしてやっているだけのパパ活なのに、まるで身体を売っているみたいに勘違いされるのは癪だった。

「一緒にご飯食べたりショッピングしたりして、お金もらってるだけ。肉体関係はないよ?」

素直に答えた。

納得してるのかしていないのかわからない反応をする彼をみつめる。

わたしは彼に告白されるものだと思ってたけど、聞きたいことってこのことだったのか。
わたし自身に罪悪感とか申し訳なさとかはないけど、気にする人は気にするよな、とか、ぐるぐる考えて、二人の間を通り過ぎる夜の風が、一気にわたしの身体を冷やしていく。
さっきまで火照っていた身体と頭が覚めていく。

ついに、彼がまた口を開く。

「僕は、君のことが好きだよ。一緒にいたいと思ってる。」

また、わたしの予想しない角度からの言葉が飛んでくる。

パパ活してるから(援交の疑いあり)もう無理って話じゃないの?と思ったら、どうやらそれもちがうみたいで。

「お金困ってるなら、僕がなんとかするし、もっと自分のこと大事にしてほしい」

彼の口から流れ出てくる言葉は、嬉しいような、でもちょっと腑に落ちないような。
わたしは自分の身体を対価にお金をもらっているわけじゃないから、自分のことを大事にしていないわけじゃないと思ってるけど、
でも、自分の時間を売っているという見方をすれば、
大事にしてほしいという彼の言い分もなんとなくわかる。

そして、めちゃくちゃさらっと告白されている。それ自体は飛んで跳ねるほどうれしい。

もうすぐ22歳。
たしかに、パパ活するにはかなり年齢的にも厳しくなってくるところだし、彼氏ができたことを機にやめるのもいいかなと思った。

パパ活なんてやめて、僕のそばにいて。
とまっすぐ言ってくれた彼を信じてみることにした。

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