誕生日が来た。
わたしは自分の誕生日が大好き。
去年まではパパたちに色んなブランド物を買ってもらって最高だったけど、今年は彼がお家でお祝いしてくれるみたいだ。
いつも派手にお祝いされることに慣れていたから、家での誕生日パーティーってどんなものかなとおもったけど、それはそれでちょっとたのしみ。
バレないなんて無理な距離で、ロウソクに火をつけてケーキをもってきてくれる彼。
火を吹き消すのと同時にプレゼントをくれた。
外袋には、特に何のブランド名の記載もなかった。
袋をほどいて、箱を開けてみると、そこに入っていたのは赤色のキーホルダーだった。
そして「お揃い！」と、ブルーのキーホルダーを彼も持っていた。
「ありがとう、嬉しい」と、言う。
言った。
けど、正直、
全然物足りなかった。
本当は、夜景の見えるフレンチとかで、着飾って食事をしたかったし、
サプライズにぱちぱち跳ねる花火のついたケーキが登場してほしかったし、
わたしの好きなブランドのバッグとか欲しかった。
それが、ノーブランドのキーケースだけ。ケーキも、普通だし。
お金のかけ方がすべてじゃないことはわかるけど、わたしがこんなささやかな規模でも喜ぶような彼女だと思われていたことがなにより切ない。
うまく笑えているかわからない。なんなら泣いてしまいたい。
好きな人じゃなくても良いものを食べさせてくれて良いものを贈ってくれるパパと過ごした方が何倍も幸せだったと、前までの誕生日と比較してしまう。
かなりテンションが下がってしまったわたしにも気付かず、彼の方が楽しそうに過ごしている。
それにもなんかイラっとする。
「そういえば、荷物とどいてたよ」
彼の言葉で思い出した。
そうだ、そうだ！
自分用にプレゼント買ってたんだ！
彼からもらったプレゼントなんて忘れて、自分宛ての自分からのプレゼントを開ける。
ずっとほしくて狙ってた、限定品のバッグ。あとついでに買ったシャネルの香水の新作も。
バッグは使いやすい大きさで、ロゴマークもポイントになっててかわいくて、最高のプレゼント。
あ～、買っててよかった！
早速鏡の前で合わせてみても、超かわいい。
自分の機嫌を自分でとれるんだから、
彼氏からのしょぼいプレゼントのことは忘れよう、としたとき、
彼はわたしの怒りを買う言葉をまた言ってきた。
「あのさ、やっぱり金銭感覚狂ってるよ、お金切り崩してまで買うものじゃなくない？」
ありえなかった。
いつもいつもわたしのお金の使い方に文句を言ってきて。
自分のお金で好きなもの買うことのなにが悪いのかさっぱりわからない。
みんなだってそうでしょ。
彼と付き合うためにパパ活もやめて、就活もしながらバイトして、お金のない彼に合わせて最近のデートだってもっぱらわたしの家だから掃除だってして、嫉妬するから推し活だってセーブした。
いろんなことをやめたり制限してるわたしによく文句言えるよね。
しかも今日はわたしの誕生日。
狂ってんのどっちだよ、とイライラが止まらない。
もういい。
わたしはもらったキーケースを手に取ってそのまま彼に投げつけた。
「わたしも、こんなノーブランドのキーケース寄越す男なんていらないから。」
それは、わたしからの別れの言葉だった。
彼はただ呆然として、そのまま黙って荷物をまとめて出ていった。
人生史上最悪の、誕生日になった。
それからのわたしは、またパパ活する生活に戻った。
顔周りまで髪を巻いて、身体のラインがきれいに見えるワンピース、サンローランのルージュを塗る。
ただ、彼氏がいたことで切ってしまったパパたちへ連絡すると、予想通り、パパたちはもうすでにほかの女の子をみつけていて、なかなか苦戦した。
”食事だけでOK”のパパからのオファーがめっきりこなくなっていた。
「大人アリなら相談乗るよ」とか、「もうそろそろ年齢的に食事だけってのは厳しいんじゃない？」とかヤリモクのパパばかりで、前は食事だけでも会ってくれていたパパにも、もうわたしの年齢でそれでは釣り合わなくなっていると言われてしまった。
太かったパパも返事すらくれなくなってたり、
話を聞くことならできるけどお手当は出せないとか言ってきたりして、
わたしの価値ってもうここにないってこと？
どいつもこいつもヤることばっか考えて、素直に食事だけで楽しもうとか思わないわけ？
わたしとご飯食べれるだけで幸せなんじゃないの？
この世界はおかしい。わたしが少し彼氏がいた間に変わってしまった。
この世界は狂ってる。
狂ってる。
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