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あの人を超える人がいない – Short Story –

SERIES -fempassCinema

YouTube「fempassCinema」にて公開中『あの人を超える人がいない』主人公視点のショートストーリー。
主人公にはどんな心の動きがあったのか、本編であるドラマとはまた違った見え方ができるかもしれません。

YouTube本編はこちら

あの人を超える人がいない。

そんな理由で、わたしはたくさんの男性と交わった。

昔から、「そういうこと」に興味がないわけではなかった。

いや、どちらかというと、私は昔から周りよりも大人びていた自覚があるし、色んな好奇心が多い方だった。

彼氏は、人並みにいた。

いや、どちらかというと、かなりいた。

中学生のころから、彼氏が途切れたことはない。
そのたびに、その彼氏のことは大好きだったし、色んな理由で別れたり付き合ったりを繰り返していた。

男の子は、その人によって、「モノ」の形が違う。

感じるところも違う。

キスするときの息継ぎのタイミングも違う。

受けがいいか攻めがいいかも違う。

声の出し方も違う。

最後の体勢も違う。

その違いを、この人はどこが好きなんだろう、どこが気持ちいいんだろうと、

目で見て、手で触れて、耳で聞いて、感じ取る。

ビンゴ!と頭の中で鳴るまで、回数を重ねて、相手の好きなポイントを探る。

それがただただ楽しかった。

それなのに、出会ってしまった。

ただ、ただわたしが気持ちよくなってしまう相手と。

攻略なんてそんなことどうでもよくなって
相手が“どこ”が好きかなんてどうでもよくなって
わたしが自らなにかを仕掛ける必要もなく
ただただ気持ちいい人。

身体の相性ってこのことかと
いままでしてきたことはなんだったのかと
電撃が身体中を駆け巡るような、そんな驚きを覚えた。

出会ったきっかけは些細なことだった。
友人から勧められたマッチングアプリ。

どうでもいい吹き出しばかり吐いてくる男性たちに紛れて出会った中の一人だった。
メッセージは他愛のないものだったけど、どこかほかの人と違うなにかを感じた。

やりとりが呼吸をするように自然で
会話のテンポがぴったりハマるような感覚。

不思議と返信を待ってしまってる自分がいた。

そのうえ出身が同じ高校でお互い知っている先生がいたりして
共通の話題から膨らんで、会話が終わることはなかった。

その人は東京にいて、わたしは片田舎に住んでいる。

わたしの知らない世界をたくさん知っている人だと思った。

新しいなにかを、まるで未知の星をひとつひとつ教えてくれるような、そんな人に映った。

何日かメッセージでのやりとりをしていたとき、
わたしの住んでいる場所(彼にとっての地元)へちょうど帰ってくるタイミングがあると言われた。

大きく胸が躍る感覚があった。
もしかしたら会えるかも、と。

これまでだってそれなりにモテてきた。
相手をうまく誘導して、わたしを誘いやすいように仕向けてきた自覚がある。
それがわたしがわたしの自尊心を上手く扱う簡単な方法だった。

それなのに。

過去のやり方なんてかなぐり捨てて、「タイミングがあったら会いたい」と、初めて自分から素直に男性をデートに誘った。

すこしの保険を心にかけながら。

こんなに返信の一つを待つのにドキドキしたことなんてない。

どちらかというと、数多の男性から来る、誰彼構わず送っているんだろうなというメッセージを、鬱陶しく感じる側の人間だったはずなのに。

ほどなくして彼から連絡が返ってきた。

「金曜の夜なら空いてるよ。会おっか」

マッチングアプリの彼のプロフィールに移るのは、ぼんやりとした顔半分と、スノボをしている写真の2枚だけ。
どんな顔立ちをしているのかも、身長も、雰囲気も、あまり掴みどころがなかった。

それでもわたしの中での期待は、消えかけの電球が灯るようにぼんやりと、ゆっくりと、でも確実に明るくなっていった。

当日、学校をさぼった。約束は夜からなのに、そわそわが止まらなくて、いてもたってもいられなくて。大人にみられたくていつもより控えめなワンピースを身にまとって、髪を巻いてまつ毛を上げた。

約束の時間までカフェで暇をつぶした。何度も鏡を確認した。

会ったことのない人なのにどうしてこんなに念入りに整えているんだろうと、自分の中から出ようとする答えを無意識に抑えつけた。

約束していたお店は、今まで行ったことのないようなおしゃれな店内で、完全個室だった。店員に待ち合わせであることを伝え、席まで誘導してもらう。

想像しているよりもタイプじゃなかったらどうしようと不安も同時に募っていく。それでもきっとわたしの直感は当たるはず、という根拠のない自信を背負って席まで進む。

「こちらの席です」と通された先にいたその人は、想像していたよりもふんわりした雰囲気の持ち主で、わざわざ立って「はじめまして」と言ってくれた。
心臓の音が身体中を駆け巡っていたわたしを安心させてくれるような第一印象だった。

完全個室なのに席は横並びという変わったイタリアンのお店。
対面だと緊張してしまうから、カウンター形式でほっとしたのが素直な感想。
男性とデートしてきたことはあったけど、こんなおしゃれなお店で食事をすることなんて初めてだった。

どんな話をしようとか、そんなことを考えてきたつもりだったけど、実際話してみると、メッセージの中での共通点が会話が弾ませて、仕事はIT系の社長なんだとか、昔はヒッチハイクで日本一周したんだとか、歌を歌うのが好きなんだとか、たくさんその人の情報を教えてもらえた。その内容のどれもがわたしにとっては輝いて見えて、隣にいるのに果てしなく遠い存在のようにも思えたりした。

この人の腕に抱かれれば、その夢にわたしも少しだけ乗れるのかなと淡い想いがよぎっていった。

デザートまでいったころ、わたしたちの距離は急激に近くなっていた。物理的に。

わたしの受け入れ態勢がばっちりだったのもあるのかもしれないけど、だんだんと彼の息遣いが聞こえるくらいまで近づいていた。

「このあとどうする?」と耳元でささやいてくる彼の声は、食べていたデザートよりも甘ったるくて、アイスのように溶けているのは自分だとわかった。

そして、このあとのことを期待しているのはわたしの方だということまで見透かして言ってきていることもわかった。

その思惑に、わたしもわざとのように乗る。

「かわいいね」と、愛撫するかのように何度も何度も言ってくる彼に、わたしは身も心もすでに解けきっていた。

「それで、どうするの?」

優しい口調で、それでいて選択肢をわたしに委ねてくるずるい男。

「まだ、一緒にいたい…です」

素直に言ったわたしに、言えてえらいねと頭をなでるその手のひらが温かいのを感じて、自分の体温が上昇していったのがわかった。

手を引かれて入ったラブホテルは、今にはめずらしい回転式のベッドがあるところだった。
緊張をごまかすようにベッドを回してはしゃいでみたりして、無邪気に振る舞った。

そうでないと、彼の持つ艶めかしい雰囲気に飲み込まれてどうにかなってしまいそうで。

いや、どうにかなれと思ってしまっていて。

客室内を一通り見終わり、黒革のソファで一息ついたとき、彼の体温の高い手がわたしの耳元に触れた。

「さっきお店で思ったけど、耳、弱いでしょう?」

とすでに自分の弱い部分を見抜かれていたことにドキリとした。

嫌がることもせず、ただ身体が素直に反応しているのを俯瞰で見ている自分がいた。

彼から伝わる温かさを悠々と超えて上昇していく自分の体温。

さっきまで選択を委ねられていたわたしは、もうすでに彼の腕の中に全身を委ねている。

重なる唇が、これまでのどの男性とも違う心地よさだった。
美味しくて何度だって食べられる好物のように甘美だった。
わたしの身体に沿って滑っていく彼の手のひらが、身も心も脱がしていく。

彼にとってわたしなんてのは、少し絡まっただけのイヤホンをスイスイとほどくような簡単な女なのかもしれない。それでもよかった。

奉仕型だと自負していた自分はどこかにいってしまったようで、
彼の唇から、目から、手のひらから、なにからなにまでわたしのすべてを溶かしていく。

ついに身体が重なるとき、ずっと見ていた甘い夢からゆっくりと起こされるように繊細に、それでいて震えるほどの快楽がわたしを襲ってきた。

初めて、セックスをして気持ちいいと感じた。

過去の男性たちとのそれまでとは全く意味も内容も感覚も違った。

今まで自分がやってきた、相手の顔色を伺って反応して見せたり、わざとらしく身体をくねらせたり、聞こえるように荒い息遣いをしていたことまで全部、ひどく馬鹿らしく感じた。

そんなことをしているいとまがないくらいに、わたしはただ、身体の内側から上ってくる快感を指先まで通わせた。ただひたすらに覆いかぶさってくる気持ちよさを受け入れた。

わたしの奥深くでなにかが弾けた。

「今までで一番気持ちよかった」

心の底から湧いて出てくる感情は、そのまま彼からあふれてくるものと同じくらい熱かった。世にいう身体の相性がいい、っていうのはコレのことかと合点がいった。

彼は東京へ帰ってしまった。

田舎に住む学生のわたしが気軽に会いに行けるような距離ではなかった。

だからこそ、あの日の夜を忘れられず、あの日の感動を抑えきれず、手の届く範囲にいる男性と交わることを繰り返すようになった。

「あの人」と比べてほかの人は何が違うのかを分析して、「あの人」を追い求めて幾多の男性と関係をもつようになった。

会うまでの会話の流れ、会ってからのスマートさ、色気、大人の魅力、身体を重ねたときの相性、達するまでの速さ、終わってからの行動、すべてをデータに書き起こして評価するノートを作り上げた。

この人は面白いけど色気がないとか、この人は前戯はいいけど動きの息が合わないとか、この人はかわいがってくれるけど早漏だとか。

どれだけ探してもいなかった。

ただ、わたしに残っているのは、あの忘れられない夜と、数多の男性との関係を書き連ねたノートだけ。

あの人を超える人がいない。

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